2015-01-01から1年間の記事一覧

2015年のおわりに

2015年の最後のブログは、息子のことを書こうと思う。 ブログには、極力家族のことは書かないできたし これからも、それに変わりはないが... 今年は、息子にとっても、そして自分にとっても忘れ得ぬ一年であったから これまでのことをまとめて残しておこうと…

苦悩のなかで

突然、大波が押し寄せてきたように 雨が凄まじい勢いで降ってきた。 目の前のアスファルトの道も、ボンネットも 大粒の雨が飛び散って、真っ白に水煙があがった。 ワイパーもきかなくなって、思わず速度を落とした。 こんなに凄い雨に遭ったのは、初めてのこ…

『人生の約束』

男は海の向こうにそびえる立山連峰を見上げていた。 彼は、自らのいのちがそう長くないことを知っていた。 親友の中原と一緒に立ち上げた会社を追われ、故郷の新湊に帰ってきたのだった。 街は、ある危機に瀕していた。 彼は、ぼろぼろになった身体を引きず…

原谷苑の紅葉

燃えるような紅葉の下で、真っ白な山茶花に出会った。 冬の午後の眩しすぎる陽射しに背を向けて 幾重にも重なる花びらの一重一重が 愛おしむように、いのちを抱いていた。 固く締まった小さな赤い蕾から こんなにも柔らかな純白の花を咲かせようとは... それ…

闇に浮かぶ

鬱蒼とした森のなかを歩いていた。 紅葉を探しにきたが、そこは常緑樹ばかりで紅葉しそうな木が見当たらなかった。 諦めて場所を移そうとしたとき、道からはずれた森の奥のほうに 真っ赤に色づいている木が一本あることに気づいた。 雲の切れ間から差し込ん…

皇帝ダリア

薄紫の大きな花が、不釣り合いなほど細い茎の先でじっとうなだれていた。 得体のしれない哀しみが彼女の胸につかえているようだった。 日曜日の午後、ぐずぐずと寝床から這い出て遅い食事をとり散歩に出かけた。 11月ももうすぐ終わるというのに、緑道の楓の…

山茶花の道

わが恩人に贈る 山茶花の 降りしきる午後 山茶花の 木立のなかへ あなたに逢ひにゆきました 山茶花の くれなゐに染む 山茶花の 降り積む道を あなたに逢ひにゆきました 山茶花で にぎわう森の 山茶花の 梢のさきに あなたは咲いてをりました 山茶花に 染まら…

おまけ

富山... 雨に濡れる紅葉 能登半島七尾の焼き牡蠣

待つということ

男は海を見ていた。 鉛を融かしたような海は、流れゆく雲の色を映しながら、音もなく揺れていた。 先刻までの雨でずぶ濡れになったが、男は身動ぎひとつせずに、そこに座っていた。 穴水の漁村に生まれ、この海とともに生きてきた。 父がしていたように、い…

備忘録...

朝の立山 夜の食事 居酒屋『艶次郎』

希い

愛本橋の上空には、鈍色の曇がかかっていた。 晴れていたら、南東の空に白い三日月が出ていたはずだった。 あの小説に出てくるゴッホの『星月夜』と同じ光景は、現実のものではなく 宮本先生のこころに浮かんだ月なのだろう... それでもいつの日か、この山の…

闇を抜けて...

工場地帯の向こうから真っ赤な旭日が姿を現した。 特急電車のガラス越しに差し込んだ朝陽で染まった自分の顔が、ガラスに映った。 流れゆく景色の中で、雲を染め、川面を染め、家々の屋根を染めながら 太陽は凄まじいスピードで上昇していった。 昨日、深酒…

燃える紅葉のなかで

黄色や朱に染まった葉が、はらはらと舞い落ち、 苔むした庭に、ぽつりぽつりと紅葉の柄を描いていった。 旧軽井沢の細い道を思いつくままに歩いてたどり着いたのは 人の気配のない別荘が道の両脇に続いているだけの静かな場所だった。 このあたりの別荘は塀…

白洲正子『美は匠にあり』

農家の建物を改造したというその建物には、華美なものはひとつもなかったが 本当の贅沢とはこういうことなのだろうなと思えた。 『武相荘(ぶあいそう)』白洲次郎・正子夫妻が昭和15年からずっと住んでいた家である。 自宅から30分もあれば行ける距離に、こ…

越前竹人形

その街には、木彫と書かれた看板が軒を連ねていた。 どの店も、奥で職人が巨大な楠の塊に鑿を当てて槌をふるい 100本ほど並べた彫刻刀から1本1本を選んでは細かな彫刻をほどこしていた。 富山に井波という彫刻の街があることを知ったのは、 入善の料理旅館に…

苦悩を突き抜けて...

おそろしく長い純白のドレス...バタ・デ・コーラを引きずったバイラオーラ(ダンサー)が苦悶とも恍惚ともつかぬ表情で舞っていた。呻くようなカンテ(歌)...激しいパルマ(手拍子)とサパテアード(靴音)生きることの苦しみと歓びが、舞台の上で激しく交…

灰色の世界

薄墨を流したような空がどこまでもひろがっていた。 黒姫高原のスキー場には、ゲレンデを覆い尽くすほどのコスモスが咲いていた。 北陸のわずかな陽射しを求め、伸び上がるように咲いたコスモスは、 静かな眼差しで、その灰色の空を見上げていた。 なんと優…

語りかける花

あの空の透きとおった水浅黄は、何を反映しているのだろう。空の奥に水浅黄の光源でもあるのか、それとも深い井戸でもあって無限に水浅黄を流しているのだろうか。 海はその水浅黄を映して、底深い器にため、青藍を深々と湛えている。いずれも水や水蒸気とい…

いのちの色

最初の衣の前に立ったとき、背筋に電流が走り、全身が泡立っていった。 想像を絶する美しさに、神経が錯乱したのか... 一瞬止まっていた呼吸から、深いため息が漏れた。 いままで観てきた、どんな名画よりも深いため息だった。 それから後は、ただ夢の中を歩…

いもり池の雲

前略 今朝、長野の宿を出て山越えの道を走り、妙高高原に着きました。 昨夜から降っていた雨は少し前にあがりましたが、8月だというのに肌寒いほどの空気です。 真っ白な雲が、森の向こうを西から東へ這うようにゆっくりとながれています。森から雲が生まれ…

花を差し出す人

遠州灘は穏やかであったが、 浜辺の近くだけが、風に煽られて波立っていた。 弓なりにどこもまでも続く砂浜には、人影はほとんどなかった。 海のうねりから立ち上がった波が押し寄せては、崩れ落ちて海に還っていった。 崩れる前に陽射しを跳ね返してぎらつ…

輝く水面

軽井沢の霧の中を歩いてみたくて、早朝の雲場池に出かけた。貴子が待っている霧のなかへ... それにしても、貧しい人間たちにとっての軽井沢という町はいったい何であったろう。一年のうちのほんの一、ニカ月滞在し、町を、在の人々を、蹂躙し、かつ潤わせる…

宵待草

少し開けておいた障子の隙間から流れ込んできた冷気で、目が覚めた。 空は白み始めていたが、日の出前のようだった。 民宿をこっそり抜け出て、緩やかな斜面の田園地帯に出ると 森の向こうから、旭日が昇り始めた。 空は一瞬染まりかけたが、燃え上がること…

胸中の蓮

魚が水面で跳ねた音で目が覚めた。 釣り人のために岸に繋げられた3メートル四方の筏に腹ばいになって 写真を撮っているうちに眠くなって、うたた寝をしてしまったようだった。 夜が明けたばかりの浜津ヶ池は、肌寒いくらいで... 木の筏の温かさが心地よかっ…

御射鹿池再び

風が止んで、水面のざわめきが鎮まると 足元に、絵のような景色が姿をあらわした。 空よりも蒼い空 雲よりも白い雲 森よりも深い緑 酸性が強く、魚も棲むことのできないその広大な池は 暗く冷たい水底をおし隠すように 鏡に変じて、空と森を映し込んでいた。…

清められるいのち

台風11号が四国を縦断し、兵庫県に上陸したと、ラジオが報じていた。 海の方から這い上がってきた雲が、龍のようにうねりながら高速道路を越えていった。 そして、清水を過ぎたあたりから、ワイパーで払いきれぬほどの凄まじい雨になった。 橋の上で横風に煽…

絵画のような...

薄絹を敷いたような霧が、駿河湾を覆っていた。 伊豆の山並みが、紅碧色の霞をまとって静かに横たわっていた。愛知からの帰り道 新東名の上空が、真っ赤に染まった。 次のサービスエリアまで...と願ったが 富士川を過ぎたあたりからその色は冷め始めてしまっ…

昼寝

夕暮れの潮風が、髪を撫で、頬を撫で、街の方へと流れていった。 ヨットハーバーのある海辺の公園... 桜並木の下のベンチに寝そべっていて、いつのまにか眠りに落ちていた。 シロツメクサの草原で遊ぶ子供たちの声で目が覚めた。 子供の頃、母が公園でよくシ…

泥のなかで

足元に視線を落としたまま、いもり池への小道を歩いていった。 祈るような気持ちで...一歩また一歩... 池の隅に咲く一輪の睡蓮を見た瞬間、胸の中で花が開いたような気がした。 そして視線をあげると、広大な池一面に、無数の睡蓮が咲き誇っていた。ああ、今…