2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

木のナイフ

宮本輝氏の小説がきっかけて最初にペーパーナイフを彫ったのは、一年前のことだった。 しばらくつくらずにいたが、今年に入って春ごろから、一気に何本も彫ってきた。小刀一本で、木と悪戦苦闘しながら、木を削って削って... 四角い材料から形が現れてくるの…

酔芙蓉の道

「私は散る前にせめて一度は酔いたかっただけよ」... 年に一度...9月1日から3日の風の盆を二人で見るためだけにに、 八尾の石畳の街に男が買った家... 来る年も来る年も現れぬ女が、その年に家の前に植えさせたのは酔芙蓉だった。 そして、風の盆の夜、女は…

江の島にて

雲間から漏れた夕陽が、海に差し込んで 烏帽子岩のシルエットが、浮かび上がった。 夏の余韻などひとかけらも残っていない、静かな海の向こうにそびえる 霞んだ富士の稜線が、哀しく...そして美しかった。 景色に似合わぬ、イルカショーの音楽と喚声が 人の…

使命に生きる人

声が印象的だった。 大きく澄んだ声だった。 その人と初めてお会いしたのは、大学で行われた会議の席だった。 自分の名前を言うと、間髪を入れず息子の顔を思い出していただき 「息子さんのデッサンは素晴らしい」 と褒めてくださった。 ある行事をきっかけ…

逆巻く流れ

加賀での打ち合わせを終えて、金沢経由で富山に戻る途中 国道8号線から少しだけ逸れた場所に、一の滝はあった。 雨で増水した川の濁った水は 恐ろしいような轟音を立てて堕ち続けていた。 その逆巻く濁流に吸い寄せられるように 滝の二段目の棚をぎりぎりの…

滝のごとく

常願寺川に沿った登り坂を、息を切らしながら登っていった。 切り立った断崖が迫ってくるようで、眺めているだけでめまいがした。 曲がりくねった道の彼方に、その滝が姿を現したとき 霧のような水滴を頬に感じた。 それは雨ではなく、岩にぶつかって砕けた…

越中八尾の夜

秋の風が、蕭々と吹いていた。街道沿いにどこまでも連なる提灯の上に月が出ていた。 4か月ぶりの富山出張おわら風の盆のことを知ったのは、昨日の夜のことだった。今日が最終日であることを知り、夜7時半に富山に着いて、そのまま電車を乗り換えてここに来た…