2017-01-01から1年間の記事一覧

大事な友と...

伊勢湾岸道から桑名に入った入ったあたりから雨になり、員弁川に沿って北上していくうちに、霙が混じりはじめた。 仕事を終えて建物から出てくると、それは吹雪きとなって吹き荒れ、鈴鹿山脈の稜線さえも見えなくなっていた。 三重県の天気予報は晴れだった…

一級建築士合格の日に

低い欄干に両手をついて 橋の下を覗き込むと 昨日の雨で水嵩を増した清流が、岩で砕けていよいよ激しく流れていた。 もう正午になろうというのに、冬の低い陽射しは狭い川原の枯草を照らしはじめたばかりで川面には届かず 暗い川面のところどころに白波が立…

翡翠色の海

鉛色の空から落ち始めた霙が、灰緑の波の上に無数の波紋を残しながら海に溶けていった。 山から這い降りてきた痺れるほどの冷気が、海の吐息を白く曇らせる。 それは、海に溶け込むように死を迎えたいのちが、再び次の生へと蘇っていく姿のようであった。 冬…

紅葉を求めて...

西側の山の稜線から現れた雲が、薄墨が拡がるように青空を覆っていった。 不意に降りはじめた霙がフロントガラスにへばりついて、山々の紅葉を滲ませた。 ワイパーに拭われるごとにできる扇のなかの紅葉の絵巻は、コマ送りのように姿を変えながら、窓ガラス…

清流の畔

渓流から湧きあがった風が、川面にかかる木々の葉を漣のように揺らし 樹木のまわりで小さな渦をつくりながら、緑の大気のなかに溶けこんでいった。 水の音だけが強くなったり弱くなったりしながら、谷に響いていた。 国道から川沿いの脇道に折れて間もなく森…

立山杉

南へと流れて行く雲の大きな影が向かいの山々を覆う見事な錦繍の上を這って行った。雨上がりの空は澄み渡り、山は冷気に包まれていた。 水を含んだ落ち葉を踏みながら険しい林道に入っていく...美女平という地名に誘われて、紅葉を求めてここまで来てみたが…

漁師小屋

風は強く海は荒れていた。 幾重にもせり上がっては崩れていく白波は風に蹴散らされ 舞い上がった飛沫が海を煙らせていた。 飛び立とうとしては風に押し戻され 諦めて砂浜にうずくまる海猫たちを見おろすように 一羽の鳶が風を掴んで悠々と飛んでいた。 晩秋…

マツヨイグサ

8年ぶりにこの木の前に立った琵琶湖の朝... 薄墨を流したような空と湖面の間に一筋の雲がたなびき 比良の山々の藍い山並みが折り重なりながら雲のなかに溶けこんでいた。 湖の方から吹きつける西風に、ときおり混じる霧のような雨粒で 髪が濡れていった。 …

父に会いに...

父に会いに行った帰り道 ときたま通る川沿いの道にコスモスが咲いていた。 いつの間に咲いていたのか、もう終わりかけのようで 軸だけ残った細い茎が、花とともに風になびいていた。 春先に頭部に大きな怪我をして入院生活をしていた父は、 8月に退院してか…

闇の向うの光

魔に誑かされる時...人はきっとこんな気持ちになるのだろうと 僕はこの池の前に来るたびに思う。 魔と言うものは、決して恐ろしい顔などしていない。 水面に映る景色のあまりの美しさに正気を失い 現実と非現実の見境がつかなくなって、くらくらと眩暈がして…

南吉の彼岸花

まっすぐに天を指して伸び上った太い茎の上に 身をよじるほどの熱い想いが、炎のように咲いていた。 新美南吉という早逝の作家を偲んで植えられた無数の彼岸花の赤が 曲がりくねった川に沿って、どこまでも続いていた。 『ごん狐』の物語の哀しみが、不意に…

おわら風の盆

黄金色に染まった田園を渡ってきた風が山の斜面で不意に乱れて木々の枝を不規則に揺らしていた。 それでも空を覆う雲に動く気配はなく…井田川から立ちのぼるざわめきの向うで祭の衣装に身を包んだ踊り手が通りに姿を現した。 富山平野から飛騨高山へと続く山…

散りゆく蓮華

泣いている夢を見ていて目が覚めました。何故泣いていたのかは覚えておりません。それでも、微かな胸の痛みと頬に涙がつたった跡が残っているのをみると本当に泣いていたようでございます。 下を覗いてみたら葉っぱの上に、もう白くなってしまったわたしの花…

ひまわりの祈り

丘を越えてなだらかな下り坂に入ると、国道の左手に広大なひまわり畑が現れた。 空を覆う雲の上を昇りゆく太陽の、微かな気配を追うように ひまわりの群は、うなじを傾けたまま東を向いて弱々しく立っていた。 時おり吹いてくる生暖かい南風の向うには太平洋…

花を拾う

夕暮れとともに、渾身の力をこめて開いた五弁の花のその先に こじれた運命の糸のように絡まった繊維が、ほどけるようにしてひろがっていった。 陽は既に落ちていたが、水分を含んだ重い熱気は、 草いきれの残滓とともに沈殿物のようにいつまでもそこに漂って…

苦海浄土

不知火というどこか妖しげな名前には似つかわしくないほど、蒼い海だった。干潟にできた まだらな水盤の上を、真っ白な雲がまだらのままゆっくりと流れ浅すぎて波になりきれない波紋が、幾重にも干潟に寄せては消えていった。 この海だったのか...子供の頃に…

常願寺川

寄せては返す波と揉みあい絡み合いながら おおいなる清流は、滔々と富山湾へと流れ込んでいった。 6月の重く湿った風にざわつく常願寺川の河口に夕暮れが迫っていた。 防波堤とテトラポットで固められてしまった富山湾の海岸線の そこだけ人工物の途切れるこ…

つきのひかり

夜の海を見ようと思ってカーテンを開けると漆黒の海の上に蒼い月がぽっかりと浮かんでいた。海に落ちた月影は、漣の上で煌きながら反射して三河湾を仄明るく包んでいた。 海辺の丘の上に建つ古びたリゾートホテル...部屋の灯りを消して、ベランダに出る。手…

幸福の赤い実

その人の微笑みは、白梅の蕾がふわりと開いたような匂いがした。 テーブルの隅の席にちょこんと座って、静かにしているお母様に Sさんは優しい眼差しで話しかける。 何も言わないけれど、ときたまその笑みがふわりと浮かぶ。 なんとしあわせな光景であろう…

躊躇う花

新緑に覆われた庭園の径の脇に、真紅のツツジが咲いていた。 沈みゆく夕陽の、山間に消え入る間際の血の色のような紅が 細い枝の先で燃えていた。 元同僚のTさんと会ったのは、その会社を解雇された後に就職した会社が破綻して 神田の会社に転職をしたころ…

5月の君に...

海風にさわさわと揺れる若葉の隙間からこぼれる陽射しが花園の上で蝶のようにゆらゆらと舞っている ああ5月よもっとも香しく美しき季節冬の眠りから覚醒し、いよいよ躍動の始まる季節港からのながい坂道をゆっくり昇って、僕は5月の君に逢いに来た 目覚め…

遙かなる立山

早月川の清らかな流れのはるか方に 雪を頂いた立山の蒼い山並みがそびえ立っていた。 何十回も富山に来ていて、 こんなに澄み切った立山を見たのははじめてのことだった。 いつも霞んでみえる山々がこうしてはっきりと見えると、どうも落ち着かない。 美しい…

七年目の桜

4月にしては少し強すぎる陽射に背を向けるように、八重桜がうつむいて咲いていた。公園には多くの家族連れが来ていて、子供たちが芝生の上を元気に走り回っていた。あの日も、そうだったな... その春... 入退院を繰り返していたM君が、生死の間を彷徨う瀕死…

浜名湖畔にて

おとうさん 昨日遅くに浜名湖に着きました。 日没には間に合いましたが、雲が多くて西の空はほんのり赤みをおびたくらいで夜がきました。 おとうさん それから僕は飲みに行きました。 ずいぶん飲みすぎてしまいました。 だって おとうさんの身に起こったこと…

山桜

滾々と湧きいずる清水の沢に、白い花びらがふたひら落ちていた。桜の花びらにしては小さいようだったが、つけ根の薄紅色は桜のそれだった。あたりを見回してみたが、こんな森の中に桜の木などあろうはずもない。森の外から風に舞ってきたのだろうか... 黒部…

桜の樹の下で...

富山湾から吹き上げてくる風が、チューリップの花をに揺らし 土手に連なる満開の桜を揺らして吹き抜けていった。 桜並木の向こうには、雪を頂いた立山の蒼い山並みがそびえていた。 朝日舟川べり 春の四重奏チューリップ、菜の花、桜…そして立山連峰タイミン…

花園にて

花園に続く細い坂道は、今朝まで降っていた雨にぬかるんでいた。 一歩また一歩と踏みしめながら、胸が高鳴っていった。 このところめっきり減ってしまった関西出張が、 この季節に突然入るなんて、奇跡のようなことだった。 僅かな時間の隙間を縫って、大阪…

道標

紫灰色の雲が、長い水平線の上に厚く横たわっていた。 日の出の時刻を過ぎたのに、あたりはまだ薄暗かった。 海辺はでは、何人かの観光客が日の出を待っていたが 一人になりたくて、その場所から離れた防波堤の上でその時を待った。 やがて雲の上辺が輝きは…

海に沈む夕陽

灯台の建つ丘の上に辿り着いたのは日没の20分前だった。 灰色がかった空に、ほんのり赤みがさしていたが、燈火は未だ灯っていなかった。 閉ざされた門の横にある小さな土産物屋のテラスが額縁のようになって その向こうに海が見えた。 塗装のはげた手すりか…

常滑の夕景

常滑の旧い街並みのなかの狭い道を抜けると、海岸に出た。 遠浅の伊勢湾は、強い西風に煽られて荒れていた。 懐かしい眺めだな... 20年ほど前、メーカーの技術営業として全国を走り回っていた頃、 この地域の醸造関係の会社にコネクションのある大五郎さんと…