2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

嵐山渓谷

雨は朝まで降っていたようで、すべてがしっとりっと濡れそぼっていた。 川の流れは、濁っていた。 山の端から陽が射すと、小枝や葉の先端にできた水滴がいっせいに輝いた。 湿った幹から湯気がたちはじめた。 まだ暗いうちに出発したので、時間が余って東松…

夕暮れの記憶

夕暮れの田園地帯を歩いていた。 陽が落ちて、空は静かに染まっていった。 すすきの綿毛が、風に揺れていた。 畑のまん中で、皇帝ダリアがうなだれる姿を目にして ふと、若かりし日の母の姿を思い出した。 中学生の頃から父の商売はうまくいかず、急激に生活…

長瀞の紅葉

埼玉の客先での打ち合わせを終えて会社に電話を入れ、 駅舎に入ると、そこに見事な紅葉のポスターが貼ってあった。 長瀞の紅葉だった。 もしかして近いのかなと思い、スマホで検索すると40分ほどで行ける。 ちょうど、電車が出る時間が近かったので、衝動的…

夕暮れのダイアモンド

広大な公園のいちばん奥で、紅葉の写真をとっていたら 閉園30分前のアナウンスが流れた。 思い思いの場所に散らばっていた人々が、広い通路に出てきて 川の流れのように門に向かって動き始めた。 丘を下り、日本庭園の前を横切って、鬱蒼とした木立を抜け...…

流れゆく落ち葉

清流に沿った小道を、息を切らしながら登っていった。 道は細く、そして険しかった。 滝に逢いたかったのだ。 峻厳な滝に... 美しい滝に... 哀しみが、胸のなかに重くひろがっていた。 目指す滝は、ずっと上流の方だった。 いくつかの滝を越えて、長い緩やか…

ブルー・ライト・ヨコハマ

待ち合わせには少し早かったので、 海沿いの道を歩いていくことにした。 雲の隙間から一瞬射し込んだ夕陽が、人々の顔を朱く染め 光った波間でボラが跳ねた。 灯り始めた街のあかりを遠く眺めながら税関の横を抜けて駅へ向かった。 K君の呼びかけで、横浜港…

小林秀雄『当麻』

このブログを読んでくださっているKさんのコメントを機に世阿弥の『風姿花伝』を読んだ600年前に書かれ、明治に至るまで一子相伝の書として観世家に秘蔵され、他者の目に触れることもなかったものである。 風姿花伝 (岩波文庫) 作者: 世阿弥,野上豊一郎,西…