2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧

紅に染まる

ゆらゆらと波立つ清流の水面が、 血を流したような深紅に染まっていた。紅葉の盛りを過ぎたくらがり渓谷… 僕はひとりになりたくて、歩道を逸れた渓流伝いに森の奥へ奥へと歩いていった。 悩める一人の友を想いながら... 傾斜が緩やかになったそのとき ふと足…

能舞台『沖宮』

能舞台のうえで緋色の花がぱっと咲いた。 白装束の少女あやが 目の覚めるような鮮やかな紅の長絹に袖を通す。 小さな白足袋が舞台を滑り 能舞台は佳境に入っていった。 水俣病との闘いに生涯をささげた石牟礼道子さんが 最後の力を振り絞って遺言として書い…

雨の兼六園

川を模した流れにかかる石橋に差しかかったとき 薄鼠色の空から糸のような雨が落ち始めた。 水面に浮かんだ輪郭のぼやけた太陽が 折り重なる同心円のうえで拡がっては消えてゆく。流れから取り残された黄葉の配列さえもが 庭師たちの企みではないかと思うほ…

鉄橋

錆びの浮いた鉄骨の下にたまった雨の滴が膨らんでは落ちて 暗い水面に不規則な波紋をつくっていた。 ゆっくりと流れてきた紅葉の落ち葉の列が波紋のうえで微かに揺らめく... 見事に色づいた錦繍を背にして、その鉄橋はただ静かに佇んでいた。 新潟から鶴岡に…