2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧
初夏の匂いのする夕暮れの風が、四条大橋のたもとの柳をふわりと揺らして川下に流れていった。 観光客で賑わう四条通の南座の前を過ぎて、大和大路を南に折れると、急に人通りは少なくなり、 細い路地を右に折れ左に折れて宮川町に入ると、人影はほとんどな…
夜が明け始めていた。 宿を飛び出して、川沿いの道を海へと急いだ。 浜辺にたどり着いたときには、東の山の端が朱く染まっていた。 南知多の海は、霧に包まれていた。 海の上に立ち込めた霧に、曙光が散乱してなんともいえない美しい色に染まっていった。 絹…
その路地には、懐かしいにおいが漂っていた。 醤油の製造工程で出てくるにおい。なんともいえぬ甘酸っぱいにおいである。 朽ちた黒壁は、建っているのが不思議なくらいに木の窓枠は上下にねじ曲がり、 破れた壁にはトタンで目隠しがしてある。 曇りガラスの…
艶やかな衣装を身にまとった乙女らが、雨上がりの曇り空を見上げていた。 2年前、ここでチューリップを見たときも、雨が降っていた。 かかりつけの心療内科で、K先生の笑顔と元気な声に励まされて、病院をあとにした。 行くあてもなく歩いて、ビルとビルの…
頬をやさしく撫でるほどの微かな春の風が 散りゆく桜のはなびらをはらはらと舞わせていた。 湿った土の上には、桜の小紋が敷き詰められていた。 散ったばかりの染井吉野の木はみすぼらしくて、 見ているとかなしくなるので、 見上げないように視線を落として…
冷たく重い曇天の下で、万朶の桜が雲のごとく城跡を覆い尽くしていた。朝から降り続いていた雨は、昼前にあがったが、空気は冷たく張り詰めていて夜には雪が降り始めるのではないかと思われた。 上田城は真田氏の居城であった。この城の歴史は、上田城合戦と…
神戸の中心部のホテルがとれず、阪急電車にそのまま乗って新開地まで来た。 夜8時だというのに、駅員もいない地下の改札は薄暗く、 澱んだままの昭和のにおいに、一瞬息が詰まった。 地上に出て緩い坂になったレトロな商店街を少しのぼって行くと 路地を右…