2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『蝶』宮本輝著

日没の余熱が冷めたばかりの青黒い空の下で、 対岸の山が、熾火(おきび)のように静かに燃えていた。 夕陽を吸い込んだようなその色は、真っ黒な川面に映って揺らめいていた。 桑名での仕事を終えて名古屋の宿に戻る途中、香嵐渓に立ち寄った。 山を覆う紅葉…

ひかげの花

長野のKさんが送ってくださった100個余りの渋柿を 部屋に広げて剥き終わるのに二時間近くかかってしまった。 干し柿にする紐を縛るのがまた一仕事だし、 今年は紐を少し工夫しようと思っていたので、 買い物ついでに気分転換をしようと、柿でいっぱいになっ…

闘争

庄川峡の船着き場に着くと同時に雨が降り出した。 船に乗るのはやめて、車を道路脇に停めて川沿いの国道を歩きはじめた。 雪崩避けの覆道の、谷に面した柱の間で雨宿りをしていると、 廃橋のなごりのコンクリートの橋脚の下を、遊覧船が通り過ぎていった。 …

秘色(ひそく)

富山には珍しい、抜けるような蒼い空が広がっていたが 晩秋の低い陽射しは、急峻な山々に遮られて、深い谷底には届かなかった。 トロッコ電車は、光と影のなかを交互にくぐりながら 山の中腹を這うようにゆっくりとのぼっていった。 朝いちばんの仕事を終え…