灰色の世界

薄墨を流したような空がどこまでもひろがっていた。


黒姫高原のスキー場には、ゲレンデを覆い尽くすほどのコスモスが咲いていた。
北陸のわずかな陽射しを求め、伸び上がるように咲いたコスモスは、
静かな眼差しで、その灰色の空を見上げていた。


なんと優しい色だろう...
この花の色がか?
否...そうではないようだ。

昨日佐久で観た輝くコスモスとは見違えるほどの優しさは、
この空のせいなのだ

 灰色の世界    志村ふくみ


 清涼寺の楸(ひさぎ)で染めた灰色は
 山門や、塔のまわりを群れて飛ぶ
 鳩の羽いろ
 

 淡(うす)ねずみに、紫すこし、茶をすこし
 筒のなかから振りかけて
 うっすら夕靄のかかった♭(フラット)の鳩羽鼠
 どんな色も黙って静かに受け入れる
 無類に優しい色である

  
 あたりの色を自分のなかに抱きこんで
 自分は透きとおってしまう色   
 そのあたりにぼおっとにじむ
 柔らかい背光
  

 もしできることなら
 苦患や、絶望のふかいところで
 身を砕き、心を砕いて
 黙って働いている女のひとの
 その衣の中に
 私は楸いろのほんのすこしの優しさを
 織りまぜておきたい。

色を奏でる (ちくま文庫)

色を奏でる (ちくま文庫)


すべての色の基調は灰色だと言う。
あらゆる色に寄り添う影...やさしさといたわりの色
どんな色をも静かに抱き込んで、自分は透きとおってしまう色
深い哀しみや苦痛を抱きながらも懸命に生きようとする人を、やさしく慰める色


そんな色を、そっと織りまぜて人に差し出せたらな...
布を織ることはできずとも
心に織りまぜ、言葉に織りまぜ、友に差し出せる人になりたいと願った。


やがて冷たい冬が来る。
厚い雪に覆われた大地のなかで、コスモスは、この空の夢をみるのだろうか。


厳しい冬の間に、やさしさを育むのかな…
人間も…