薄墨を流したような空がどこまでもひろがっていた。
黒姫高原のスキー場には、ゲレンデを覆い尽くすほどのコスモスが咲いていた。
北陸のわずかな陽射しを求め、伸び上がるように咲いたコスモスは、
静かな眼差しで、その灰色の空を見上げていた。
なんと優しい色だろう...
この花の色がか?
否...そうではないようだ。
昨日佐久で観た輝くコスモスとは見違えるほどの優しさは、
この空のせいなのだ
灰色の世界 志村ふくみ
清涼寺の楸(ひさぎ)で染めた灰色は
山門や、塔のまわりを群れて飛ぶ
鳩の羽いろ
淡(うす)ねずみに、紫すこし、茶をすこし
筒のなかから振りかけて
うっすら夕靄のかかった♭(フラット)の鳩羽鼠
どんな色も黙って静かに受け入れる
無類に優しい色である
あたりの色を自分のなかに抱きこんで
自分は透きとおってしまう色
そのあたりにぼおっとにじむ
柔らかい背光
もしできることなら
苦患や、絶望のふかいところで
身を砕き、心を砕いて
黙って働いている女のひとの
その衣の中に
私は楸いろのほんのすこしの優しさを
織りまぜておきたい。
- 作者: 志村ふくみ,井上隆雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1998/12/01
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
すべての色の基調は灰色だと言う。
あらゆる色に寄り添う影...やさしさといたわりの色
どんな色をも静かに抱き込んで、自分は透きとおってしまう色
深い哀しみや苦痛を抱きながらも懸命に生きようとする人を、やさしく慰める色
そんな色を、そっと織りまぜて人に差し出せたらな...
布を織ることはできずとも
心に織りまぜ、言葉に織りまぜ、友に差し出せる人になりたいと願った。
やがて冷たい冬が来る。
厚い雪に覆われた大地のなかで、コスモスは、この空の夢をみるのだろうか。
厳しい冬の間に、やさしさを育むのかな…
人間も…