2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

水の記憶

緩やかな斜面をあがる途中...ふと振り返ると、 森の背後には藍鼠色の穏やかな海が雨に煙っていた。 夢の余韻をかかえたまま、田園の広がる扇状地の田園の道を走っていった。 森はもうどこにも見当たらなかった。 富山湾の海辺に湧き出る水は100年前に浸透し…

森に降る花

黒部川にかかる橋を渡り入善町にはいったあたりで、とうとう雨になった。 五月に降るこんな霧のような雨を麦雨(ばくう)というらしい... フロントガラスにふりかかる細かい雨粒をワイパーが拭うたびに 目の前の道も、一面の麦畑も、しっとりと濡れていった…

純白の花

春の夜の眠りから覚めたばかりの純白の花群れが、五月の蒼い空を見上げていた。 早朝の便で、立山を越えて富山空港に降りて、車で20分... 安田城址は、八尾へとつながる井田川のほとりにあった。 400年前 秀吉の富山攻めの拠点となったこの城の水濠は 当時の…

儚きいのち

ふと目を覚ますと、眩しかった陽射しが翳り初めていた。 薔薇棚の柱の陰のベンチに座って、そのままま眠ってしまったらしい... 夕凪の海から吹き上げてくる風を大きく吸い込んでから立ち上がった。 ああ、陽がおちてしまう... 海岸通りに出て、丘の上の公園…

碧の水面

雲が切れ、鬱蒼とした森に五月の陽光がぱっと射しこんだ。 川面がいっせいに萌葱色に輝きはじめた。 愛知の客先で打ち合わせの帰り道... 出口のみつからない仕事に辟易として、茫然と車を走らせていた。 結局またうまくいかないのだ... 暗い気持ちのままいつ…

幸福を見出す人

雪のような真っ白な花が降っていた。 そして、そこだけ時が停まっていた。 その日、僕は初めて白藤を見たのだった。 通り沿いにある塀のない、畑のような広い庭に、その花は咲いていた。 車を停めて写真を撮っていると、庭に出てきた老人に、「入ってきなさ…