薄絹を敷いたような霧が、駿河湾を覆っていた。
伊豆の山並みが、紅碧色の霞をまとって静かに横たわっていた。
愛知からの帰り道
新東名の上空が、真っ赤に染まった。
次のサービスエリアまで...と願ったが
富士川を過ぎたあたりからその色は冷め始めてしまった。
間に合わなかったな...
少し落胆しながら、駿河湾沼津SAの入口でハンドルを切った。
しかしそこには、想像もできなかった風景が待っていたのだ
あらゆる自然の条件がこの瞬間に重ならなければできなかったであろう奇跡の風景...
きっと二度と出会うことはないに違いない、絵画のような風景
こんなにも美しい瞬間に出会えたしあわせに、ため息がひとつ
美しい景色によく出会うなと、人から言われる。
それは、朝な夕なに願い続けているから...
煩わしい現実のなかで、せめて一瞬でも美しいいのちの姿に出会えますように...
そしてそれを友のこころに届けられますようにと
仕事に悩む友、自身やご家族の病に苦しむ友、経済苦にもがく友...
気づいてほしい
いのちとは、こんなにも健気で美しいものなのだということを...
幸福は、自身のいのちのなかにあるということを...
自分にも、それを教えてくれた友がいた
茜色は、西の空に流れて行き
天涯には、濃紺の空がひろがっていった。
まばゆいばかりに燃え上がったいのちも、やがて静かな死へと向かっていく。
全てが幸福の裡に流れていきますように...
暮れゆく空を見上げて、もう一度大きく深呼吸して...
帰りを急ぐ車のテールライトの波のなかに合流していった。