天に向かって差し上げた翅が、微かな春の風に震えていた。 七年の眠りから醒めた蝶は、渾身の力で翅をひろげたが 飛び立つ刹那に花に化身した。 春の光を吸い込んで咲き乱れる艶やかな花々の足元で カタクリの花は、まるで闇を吸って生きてきたかのように哀…
糸のような細い雨が音もなく降りはじめた。 前を歩く白髪の夫婦と距離が縮まらぬよう、 土の匂いがたちのぼる小径をゆっくりと歩いていった。 何も言わずに連れてこられたのであろう... 少し下がって歩く夫人はどこか拗ねたようにうつむいている 門をくぐり…
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