ひとを慈しむこころ...『つきのふね』

元同僚のMさんと、個人的に相談を受けた仕事の打ち合わせ。
何度かブログにも書いたが、彼は10年ほど前から体を壊して勤めることができなくなった。
途中経過を電話で話してくれた後、ムイカリエンテの仕事の状況を聞かれる。
ひととおりムイカリエンテの話を聞いたあとに、間をおいて「焦っちゃだめだよ...」と一言。
彼のほうがずっと苦しい状況なのに、いつも励まされてばかりだ。
何度も何度も目前に「死」を意識してきた人間の、精神的な強さを感じる。
人は、いろんな人に励まされたり、逆に励ましたりしながら生きている。


つきのふね (角川文庫)
森 絵都『つきのふね』
児童文学と称される小説を読むことはあまりなかった...森絵都は初めて読む。

このごろあたしは人間ってものにくたびれてしまって、人間をやっているのにも人間づきあいにも
疲れてしまって、なんだかしみじみと、植物がうらやましい。

"あたし"は中学2年生のさくら。万引きの現場で友達の梨利を心ならずも裏切ってしまい、
友達との間に確執が生まれてしまった。
一方、万引きの拘束から救ってくれたスーパーのアルバイト店員智のアパートに通い心の拠り所にするが
この智も過去の悲しい思いから心を病んでいる。
さくらも梨利も、幼馴染の勝田君も...皆、それぞれに悲しみを抱えながら生きている。


それでも、先の見えない闇の中を懸命に生きようとする若い命。
お互いに励ましあって、守りあって、どうすれば相手が幸福なのか思いを傾けて行動する。
"支えあう"という生き方が、この小説のテーマのように思う。


心が崩壊していく智にも、実は少年時代に友人を励まして立ち上がらせた過去があった。
これから読む人のために、クライマックスシーンは引用しないでおくが...
「命」の尊さを感じ取り、友達を励ます子供の手紙に、涙がどうやっても止まらなくなる。


人と人は、支えあって、守りあっていきているのだ。
自分は、どれだけ多くの人に支えられてここまで生きてくることができたのだろう。
数限りない人々に幸せをもらいながら生きてきた。
そのうちどれか一つでも欠けていたならば、今の自分はないのだ。
逆を考えれば、自分は、どれだけの人を支えてきたのだろうか?どれだけの人を幸福な気持ちにできたか?
それは、情けないほど少ししかない。
これからだ。
これからの人生で、どれだけ恩返しをしていけるのか? 人を幸福な気持ちにさせていけるのか?
極論かもしれないけれど...そこにしか人生の意義はないように思う。