座右の一書

幾度この本を読んできたことだろう。
青年時代から、悩みにぶつかるごとに..運命を切り開くのだという祈りとともに
表紙が破れてしまうほど読んで読んで読み込んで...
ベートーヴェンの苦悩を想い、自らを鼓舞して勇気を奮い起した
イカリエンテにとっての座右の一書である。
ベートーヴェンの生涯 (岩波文庫)


しかし、まだまだ観念でしか理解していなかったのだ...


この日記でも何度も引用しているが、改めてここにを紹介して闘いを開始しよう
これは、今の自分を鼓舞するために
弱い自分の心に従わず、強い意志によって生きるため...
今日は、まえがきより

空気は我々の周りに重い。
旧い西欧は、毒された重苦しい雰囲気の中で麻痺する。
偉大さのない物質主義が、人々の考えにのしかかり
諸政府と諸個人の行為を束縛する。
世界が、その分別臭くてさもしい利己主義に浸って窒息し死にかかっている。
世界の息が詰まる。
もう一度窓を開けよう!広い大気を流れ込ませよう!
英雄たちの息吹を吸おうではないか!
  
生活は厳しい。魂の凡庸さに自己を委ねない人々にとっては、生活は日ごとの苦闘である。
そしてきわめてしまえばしばしばそれは、偉大さも幸福もなく孤独と沈黙との中に闘われている
憂鬱なたたかいである。
・・・・・・・・・・・(中略)
思想もしくは力によって勝った人々を私は英雄と呼ばない。
私が英雄というのは、心に拠って偉大であった人々だけである
・・・・・・・・・・・(中略)
彼らが力強さによって偉大だったとすれば、それは不幸を通じて偉大だったからである。
 (*彼ら:ベートーヴェントルストイミケランジェロ
だから不幸な人々よ、あまり嘆くな。人類の最良の人々は不幸な人々と共にいるのだから。
その人々の勇気によって、われわれ自身を養おうではないか。
・・・・・・・・・・・(中略)
われわれが、彼らの眼の中に、彼らの生涯の中に読み取れることは
人生というものは、苦悩の中においてこそ最も偉大で実り多くかつまた最も幸福でもある
ということである。
・・・・・・・・・・・(中略)
彼(ベートーヴェン)自身その苦しみの唯中にあって希念したことは、
彼自身の実例が他の多くの不幸な人々を支える力となるようにということであり、
「また、人は、自分と同じく不幸な一人の人間が、自然のあらゆる障害にもかかわらず
人間という名に値する、一個の人間になるために全力を尽くしたことを識って慰めを感じるがいい
ということであった。
個人的な奮闘と努力との歳月の後についに苦悩を克服し天職を...
その天職とは彼自身の言葉によれば、憐れな人類にいくらかの勇気を吹き込むことであったが...
天職をまっとうすることができたときに、この捷利者プロメテは、神に哀願している一人の友に向かって、
「人間よ、君自身を救え」と答えたのであった。

ロマン・ロランベートーヴェンの生涯』前書き)

想像をはるかに超える苦悩そのものの生涯。
第5交響曲『運命』、「このようにして運命は扉を叩くのだ」とベートーヴェンは語る。
運命は、強烈な意志によってしか開かれない。
その苦悩を開き歓喜に至る鍵は...自己のためでなく他者のために生きることなのである。
友のために、悩み祈り励ましていく行為。そこから歓喜が湧き出だす。
彼の言葉の中に、そして音楽の中に、その強い意志があふれている。


イカリエンテへの道の向かう場所は、この書の最終行にあるのだから...