クジャク

カーテンの隙間から差し込む陽射しで目を覚ました。
昨日のアルコールが、まだ抜けきっていなかったが、
布団を跳ね除けて、急いで着替えた。
仕事の前に、その花にもう一度逢っておきたかったのだ
昨夜、不意打ちのように出会ったその花に...


新神戸駅に降りていくと、
洋館の高い塀を覆い尽くすように
いちめんの花が開いていた。
忙しげな蜂が花に潜り込むたびに揺れ
海の方から吹いてくる風に揺れ
仄かな匂いが漂った

夕焼けを吸い込んだような色が、白い壁に映えていた。
やわらかな花々は、ただしあわせを謳歌しているように見えた。

しかし...
写真を撮ろうと思って、花の下にかがみ込んだとき
ファインダーのなかに映った彼女の後ろ姿にはっとした。

うなだれるようにして咲くその姿に哀しみが透けて見えた。
儚いいのちを悟ってのことか…
うつろな視線の先には、咲いたままのかたちで地に落ちた花々が
横たわっていた。


昆虫のいのちを育み、種をのこし
そして散っていくだけの短いいのち
しかし、そんな儚ささえも美しい。


あたえつづけること
いのちを慈しみ、育んでいくこと
まどさんの、詩が浮かんだ。
やさしいこころだけ
のこればいいのだ

クジャク   まど・みちお 
 

 ひろげた はねの
 まんなかで
 クジャクが ふんすいに
 なりました
 さらさらさらと
 まわりに まいて すてた
 ほうせきを 見てください
 いま
 やさしい こころの ほかには
 なんにも もたないで
 うつくしく
 やせて 立っています


降りてきた坂道を戻る途中で、振り返ってみたら
眩しい陽射しのなかに、橙色の花が降っていた。



写真の洋館は、北野の老舗フレンチ 「セント・ジョージ ジャパン」
 ランチに伺ったときの日記は↓↓↓

料理の写真も載せてます
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20131206