風を受けて

肌を刺すような冷たい風が北東の方角から吹きつけていた。
客船のような巨大な雲が、悠然と南に向かって動いていた。
雄々しい黒灰色の船底は、しかし...
西の山の端に沈んだ夕陽の遺した光の粒子を吸い込んで
暮色のグラデーションに染まっていった。


美しい時間は儚く過ぎて、
やがて、すべてが闇に溶け込んでいった。
闇のなかに残ったものは、ただ風の音だけだった。


茨城経由で新潟に向かっていた。
妙高高原から先はチェーン規制がかかっていたので、
長野に泊まることにして、高速を下りた。
西の山並みに沈んでいく夕陽を追いかけて高台にのぼり
空の様を眺めているうちに日が暮れた。


朝...
昨日山の端に消えたそいつは、再び東天を下から照らす。
雲が山が朱く色づき、寒気をやぶって一気に姿を現す。


あの憂愁はどこに失せたのか
歓喜と生命力をたたえた彼は、中天を目指して軌道をはずさず進んでいく。


早朝にホテルを出て、北へ向かった。
新潟の県境を超えたいくつめかのトンネルを抜けると、突然の雪景色
周囲の山々も雪に覆われて美しい。
田畑も家々も、すべてが雪の中で静かにたたずんでいる。


なんと美しく そして淋しい風景だろう。
その広い雪原をどこまでも歩いていきたい衝動に耐えながら
寒風のなかに立っていたら
寒さのせいではない涙で景色がにじんだ