私の上に降る雪

52歳の朝は、富山のホテルで迎えた。
二日酔いの重い身体を起こして窓の外を見下ろすと
濡れた舗道をいくつもの傘が行き交っていた。


昨夜もよく飲んだ。
誕生日の前祝いで、会社の若い同僚を連れて
飲み屋を3軒はしごした。
0時にホテルに戻って、
佐久のキキョーヤで半分食べた5号のケーキの
残りを一人で食べた。


シャワーを浴びてから朝食をいただき、魚津の客先へ...
2カ月の評価が無事に終わった装置を引き取り、小諸に向かう。


海沿いを走る北陸道で降っていた雨は
上信越道に入ると雪に変わった。
途中、チェーン規制を避けて国道18号線で長野市内まで...

昨日ここを通ったときの青空が嘘のような猛吹雪
太陽も霞んで見えるほどの凄まじい雪が降りしきっていた。
除雪されている国道以外は、森も田畑も遠い山々も、雪のなかに沈んでいった。
白と黒だけの色のない世界...
すべての生命が雪に包まれて眠りに落ちた静かな世界...

誕生日を雪のなかで迎えたのは初めてのことだな...
「私の上に降る雪は 真綿のやうでありました」
中原中也の詩を小さな声で呟いてみる。
「私の上に降る雪は 熱い額に落ちもくる 涙のやうでありました」
最後は、長生きしたいと祈りました...だったかな


今、自分の上に降っている雪は、どんな雪だろう...
思うに任せぬことばかりではあっても
やはり3年前、失意の底でこの詩を読んだときとは、
雪のにおいが少し変わったように思えた。


中原中也詩集 (岩波文庫)

中原中也詩集 (岩波文庫)

生い立ちの歌    中原 中也


1
   幼年時
私の上に降る雪は
真綿のやうでありました


   少年時
私の上に降る雪は
霙(みぞれ)のやうでありました


   十七 − 十九
私の上に降る雪は
霰(あられ)のように散りました


   二十 − 二十二
私の上に降る雪は
雹(ひょう)であるかと思はれた


   二十三
私の上に降る雪は
ひどい吹雪とみえました


   二十四
私の上に降る雪は
いとしめやかになりました...



2
私の上に降る雪は
花びらのやうに降ってきます
薪の燃える音もして
凍るみ空の黝(くろ)む頃


私の上に降る雪は
いとなよびかになつかしく
手を差伸べて降りました


私の上に降る雪は
熱い額に落ちもくる
涙のやうでありました


私の上に降る雪に
いとねんごろに感謝して、神様に
長生したいと祈りました


私の上に降る雪は
いと貞潔っでありました


美しい雪景色の世界から、
足跡をそこに残して歩きはじめた52歳の一歩


FBやメールなど、お祝いメッセージが約30人から...
感謝


♪おまけ 前日の雪景色