英雄

愛知県内の企業をまわり
19:00名古屋着
先週始まった新たな問題
不正・欺瞞...
腐敗臭にまみれた、泥のような現実
一人の夜は、酒で思考を麻痺させるしか
術がないように思われた


名古屋の夜の街に出る。
行くあてもなく、30代の頃 仕事で友人になったI氏とよく来た店に入る。
電車ですでに飲んでいたが、空腹だったので肉を一皿だけ頼んで、
ウィスキーで流し込む。なかなか酔えず、2杯3杯...
厨房を覗いて、自分より少し歳上のマスターに軽く挨拶をして、外に出る。
雑居ビルの地下...小さな厨房で33年...
どれほどの人を迎え、どれほどの料理を作り続けてきたことか...立派だな。


ホテルに帰る気になれず、もう一軒
たまたま通りがかった店に入ったら、周りは外人ばかり
コロナビールを1本..


ねばりつくような湿気の中を
ふらふらと歩いて帰る。


ジャン・クリストフ 1 (岩波文庫 赤 555-1)

ジャン・クリストフ 1 (岩波文庫 赤 555-1)

「俺はどうなるだろう? いつもこうだろうか、あるいはすっかりおしまいになるのだろうか?
 俺は取るに足らない者だろうか、いつまでたっても?」
...
彼は飲酒にふけった。
彼はいつも酒の匂いをさせ、笑い興じ、ぐったりして家にもどってきた。
  ロマン・ロラン『ジャン・クリフストフ』第三巻 青年

打ち続く苦難の前に屈し、酒におぼれるクリストフ
そこに、貧しいが心の深い行商人の叔父ゴットフリートが現れ、彼を覚醒させる。

彼はみずから尋ね、みずから魂を探りながら、その夜を過した。
彼は今や了解した。そうだ、自分のうちに芽を出してる本能や悪徳を認めた。
彼はそれが恐ろしかった。メルキオルの死体の傍らで通夜をしたこと、種々誓いをたてたこと、などを考えた。
そしてその後の自分の生活を調べてみた。
ことごとく誓いにそむいていた。一年この方、何をしてきたのであったか? 
自分の神のために、自分の芸術のために、自分の魂のために、何をしてきたのであったか? 
自分の永遠のために、何をしてきたのであったか? 失われ濫費され汚されない日は、一日もなかった。
一つの作品もなく、一つの思想もなく、一つの持続した努力もなかった。
たがいに破壊し合う欲念の混乱。風、埃、虚無...。
望んでもなんの甲斐があっだろう? 望んだことは何一つなしていなかった。望んだことの反対をばかりなしていた。
なりたくなかったものになってしまった
  ロマン・ロラン『ジャン・クリフストフ』第三巻 青年

翌朝、旅立つゴットフリートに問うクリストフ

「叔父さん、どうしたらいいのでしょう? 僕は望んだ、たたかった。
 そして、一年たっても、やはり同じ所にいる。いや同じ所にもいない!退歩してしまった。
 僕はなんの役にも立たない。なんの役にも立たないんです。生活を駄目にしてしまったんです。
 誓いにそむいたんです!」   前掲書


それは自分自身の心であった。
望んでも何の役にも立たない... 
何をしていても、誰に会っても、その思いは1年どころか10年近くも変わらない。

「今日に生きるのだ。その日その日にたいして信心深くしてるのだ。
 その日その日を愛し、尊敬し、ことにそれを凋(しぼ)ませず、花を咲かすのを邪魔しないことだ。
 今日のようにどんよりした陰気な一日でも、それを愛するのだ。気をもんではいけない。
 ごらんよ、今は冬だ。何もかも眠っている。がよい土地は、また眼を覚ますだろう。
 よい土地でありさえすればいい、よい土地のように辛抱強くありさえすればいい。
 信心深くしてるんだよ。待つんだよ。お前が善良なら、万事がうまくいくだろう。
 もしお前が善良でないなら、弱いなら、成功していないなら、
 それでも、やはりそのままで満足していなければいけない。
 もちろんそれ以上できないからだ。それに、なぜそれ以上を望むんだい? 
 なぜできもしないことをあくせくするんだい? 
 できることをしなければいけない....我が為し得る程度を。」
「それじゃあまりつまらない。」とクリストフは顔をしかめながら言った。
 ゴットフリートは親しげに笑った。
「それでもだれよりも以上のことをなすわけだ。
 お前は傲慢だ。英雄になりたがってる。
 それだから馬鹿なまねしかやれないんだ...。
 英雄....私はそれがどんなものだかよく知らない。
 しかしだね、私か想像すると、英雄というのは、自分にできることをする人だ。」
             前掲書


「英雄とは、自分にできることをする人」
もっとも簡単なようで、もっとも難しいことではないかな
いずれにせよ、自分は自分以上のものにはなれないのだから...
心を凋ませず、よい土地であること...心を耕して、しなやかでありつづけること...
今を生き、我が為し得ることを...


出張の帰り
自宅の近くで見た稲光