新たな闘いへ...

平塚に住む元同僚のKさんから先日連絡があり、
Bar Scotch Catが、
年明けからしばらく休業に入ることを教えてくれた。
休みに入る前に、T子さんにお会いしておきたいと思い
Kさんに連絡して、
平塚のもう一人の友人ムイカリエンテ3号のH君も誘い
仕事納めの後、平塚に向かった。



(左がH君 右がKさん T子さん撮影)


T子さんと初めてお会いしたのは2008年7月のこと
天職と思われた仕事を、会社の経営破綻によって断念せざるを得ず
その後の転職の失敗で、挫折感に苛まれていた時期だった。
H君が、ブログを読んで心配してくれ、
イカリエンテを励ますために、平塚に呼んでくれた。
2件目に行ったバー...当時T子さんは、その店のチーフバーテンダーだった。


女性のバーテンダーにお会いしたのは初めてのこと
その凛とした佇まい、立ち振る舞いの美しさには目を奪われた。
立ち姿にも、眼差しにも、指先にも、隙のない美しさが漂っていた。
カウンターの中に立っているだけで一幅の絵画を見ているようだし
シェーカーを振り、グラスにカクテルを注ぐ動きは、舞いのようであり
真剣を振り下ろす武士のようでもあった。
語りにも年齢に不相応なほどの気品があった。
まさに天職...この仕事をするために生まれてきたような姿に、心から感動した。


お店で働きながら、バーテンダーの大会にも次々に挑戦されていた。
国内の大会では金賞を受賞し、国際大会でも賞を獲得された。
カクテルというのは、あらゆる知識と技術、そしてセンスがそろってできるもので
それらすべてを備えていなければ大会では勝てない。
深夜まで仕事をしながら、挑戦を続けるということは、大変な努力が必要なはず..
仕事と言うものは、こうして取り組まなければいけないのだと
仕事に敗れた自分は思ったものだった。


2010年の夏に独立し、平塚駅から徒歩1分のビルにお店を構えられた。
彼女の人柄やセンスがそのままバーになったような、素晴らしいお店だ。
職場からも自宅からも遠くて、めったに行けないのだが
H君には、何度か連れていってもらった。
元同僚のKさんもここの常連だということがわかって、先日はじめて彼と一緒に行った。


そのT子さんが、ある病で手術を受けなければならなくなった。
そのことは、ご自身のブログで発表された。
自らの宿命への挑戦状だった。


めったにお店にも行かない遠い存在の自分に、何ができるわけではない。
それはわかっているが、でも、一度お会いしておきたかった。


そして、二人の友人とお店にうかがった。
開店直後にお店に入ったら「今日は一年で一番忙しい日になるかもしれない」と言われ
早々に退散しようと思ったが、結局終電ぎりぎりまで飲んで、慌てて店を飛び出した。


初めて握手をしたその小さな職人の手は、冷たかった。
言葉にはできなかったけれど、
「必ず闘いに勝って、早くお店に帰ってきてください」と
祈りながら、手を放した。


運命は、たしかに残酷である。
しかし、それに立ち向かおうとする勇者にとって、
それは生命を深めるための試金石なのかもしれない。

ベートーヴェンの生涯 (岩波文庫)

ベートーヴェンの生涯 (岩波文庫)

彼の生来の頑強さは、試練の重みの下に圧しつぶされることを承服しばしなかった。
「僕の体力も知力も、今ほど強まっていることはかつてない。……僕の若さは今始まりかけたばかりなのだ。
一日一日が僕を目標へ近づける、....自分では定義できずに予感しているその目標へ。
おお、僕がこの病気から治ることさえできたら、僕は全世界を抱きしめるだろうに!
......少しも仕事の手は休めない。眠る間の休息以外には休息というものを知らずに暮らしている。
以前よりは多くの時間を睡眠に与えねばならないことさえ今の僕には不幸の種になる。
今の不幸の重荷を半分だけでも取り除くことができたらどんなにいいか
....このままではとうていやりきれない。
....運命の喉元をしめつけてやる。断じて全部的に参ってはやらない。
おお、人生を千倍にも生きられたらどんなにいいか!
この愛情、この苦悩、この意志力、そして失意と誇りとのこの交替、内心のこれらの悲劇が、
1802年に書かれた大きな作品の中に現れている。すなわち『葬送曲のついたソナータ』(第26番)
第27番の二つのソナータ(幻想風のソナータと月光曲)、
また絶望に向かって広大な独白のような感じのする劇的な宣叙調の付いている作品第31の第2番のソナータ...
(中略)
(1803年の『交響曲第二番』について)
意志の力が決然と勝を制しつつあることが感じられる。
抗し難い一つの力が悲しい想いを吹き払う。生命の奔騰がこの作品の終曲(フィナーレ)を昂揚させる。
ベートーヴェンは幸福でありたいと望んでいる。彼は自分の疾患を不治だとは信じたくない。
彼は快癒を望んでいる。愛を望んでいる。彼は希望にあふれている。
  ロマン・ロランベートーヴェンの生涯』

付録 本日のウイスキー
ハイボール 2杯の後...


T子さんお薦めのシングルモルト
LAPHROAIG QUATER CASK  小さな樽で熟成した、超スモーキーなシングルモルト 2杯

H君のボトル
Woodford Reserve  小ロット手作りの最高級バーボン 4〜5杯ほど...


はい 飲みすぎです。