生き抜くという旗印

岩崎航(わたる)氏の五行歌に出会ったのは、
2009年の冬のこと...
筋ジストロフィーで寝たきりの青年の、
力強い生命の叫びに涙した。


前年に大きな挫折をしてから、
何をやってもうまくいかない...
知人に誘われて、未知数のベンチャーに転職することにしたが
不安はぬぐいきれなかった...
そんな48歳の誕生日...
たまたま入った喫茶店に置いてあった雑誌に掲載されていた彼の五行歌
どれほど勇気を与えてくれたかわからなかった。
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20091220


その翌月から入ったベンチャー企業は、3か月後に会社が行った過去の不正が発覚
先行きが見えなくなって辞めた。
そんな会社に入ってしまうとは...しかし、不運を嘆いても始まらず...
そして14か月の失業...妥協して入った会社は2年になったが、
40人いた社員はすでに半数以上が辞めていった。
頑張っても頑張っても、うまくいかないことばかり...


そんななか
岩崎氏が、本を出版されたと知り、取り寄せた。

点滴ポール 生き抜くという旗印

点滴ポール 生き抜くという旗印


3歳で筋ジストロフィーを発症
全身の筋肉と言う筋肉が萎縮していく。
時間の経過とともに、できていたことができなくなっていく恐怖
ついには呼吸も食事もできなくなり、たくさんのチューブにつながれて生きるしかない状態に...
間断のない苦悩...恐怖...
しかし、青年は勝った。
彼が出会った五行歌という表現
肉体は衰えても精神だけは勝ってみせる。
そんな決意の短い言葉のなかには、青空のような清々しさに満ちている。


新刊の文章を抜粋するのは、良くないことかもしれないが...
是非、ひとりでも多くの人に読んでほしい...そんな思いで前文の一部を抜粋します。

生き抜くという旗印       岩崎 航


かつて僕は、自分で自分の命を絶とうと思ったことがある。
十七歳のときだった。
前途には何の希望もないように思えた。
家人のいない、ある午後、目の前にナイフがあった。
これですべてが楽になるのかなあと、ふと考えた。涙が止めどなく溢れた。


けれども、僕は「生きる」ことにした。
それは、嵐にこぎ出す、航海の始まりのようでもあった。
まもなく、座れなくなった。
おいしいご飯も食べられなくなった。


(中略)


やがて、ベッドで寝たきりの生活になった。
吐き気地獄で、気が狂いそうになった。
自分の若い人生を、余生だとしか考えられなくなった。
ずっと呼吸器を付けるようにたった。
今まで恋愛とも無縁だった。
これらを、「生きる」ことで味わってきた。


あれからさらに二十年の歳月が経ち、僕は今、三十七歳になった。
病状は、一層進んだ。
あまりにも多くのことを失った。
思うことはたくさんある。
僕は立って歩きたい。
風を切って走りたい。
箸で、自分で口からご飯を食べたい。
呼吸器なしで、思いきり心地よく息を吸いたい。


でも、それができていた子どもの頃に戻りたいとは思わない。多く失ったことも
あるけれど、今のほうが断然いい。
大人になった今、悩みは増えたし深くもなった。生きることが辛いときも多い。


でも「今」を人間らしく生きている自分が好きだ。
絶望のなかで見いだした希望、苦悶の先につかみ取った「今」が、自分にとって
一番の時だ。そう心から思えていることは、幸福だと感じている。


授かった大切な命を、最後まで生き抜く。
そのなかで間断なく起こってくる悩みと闘いながら生き続けていく。
生きることは本来、うれしいことだ、たのしいことだ、こころ温かくつながって
いくことだと、そう信じている。
闘い続けるのは、まさに「今」を人間らしく生きるためだ。


生き抜くという旗印は、一人一人が持っている。
僕は、僕のこの旗をなびかせていく。


生き抜くという旗印...
いい言葉だな。


今がどんなに駄目でも、生き抜かなければ...
自分の旗印を見出すために


一番好きな五行歌をひとつだけ... 

  泥の中から
  蓮は 花咲く
  そして
  宿業の中から
  僕は 花咲く

もうすぐ蓮の花の季節だな...