革命のロマン

「革命」...なんと希望に満ちた美しい言葉だろう!


二週間ほど前に、映画『チェ 28歳の革命』を観た。
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ベニチオ・デル・トロの魅力に圧倒されたものの、キューバ革命のことを学ばずに観てしまったので
正直、よくわからない部分があった。
心に残っていたのは、
「革命とは何ですか?」とインタビューされたチェが「革命とは愛だ」と答えた場面。


チェ・ゲバラの生涯をもっと知りたいと思って一冊の本を買った。
チェ・ゲバラの遥かな旅 (集英社文庫)
数年前から彼に関する著作が書店に多く並んでいるのは知っていたが、写真集のようなものが多く
どうもとっつきにきかったので、読んでいなかったのだ。
今回、立ち読みしていてこの本の最初の数ページをめくったとき「熱い!」と思った。
それは、この本の著者 戸月十月の心を通したチェ・ゲバラのドキュメンタリーである。


アルゼンチンに生まれたゲバラは、重い喘息を持った弱々しい少年であった。
読書家の父と毅然とした思想をもった母の影響を受けて育つ。
ゲーテ・デュマ・フロイトボードレールなどを読みあさり、スペインの革命詩人ネルーダに心酔した。
どうせ生きるなら人のためになるような生き方をしたい..
そう決意して、ブエノスアイレス大学の医学部に入学する。
学生時代にアルベルトという友人とともに一台のバイクにまたがって南米大陸をまわる旅に出る。
そこで、様々な人と出会い南米の苦しい現状を目の当たりにする。
彼の心は少しずつ革命へと傾いていく。
母との約束を果たすため、一度アルゼンチンに戻り大学を卒業して医者になり、再び旅に..
大国に蹂躙される中南米の状況を身を持って感じる中で、
キューバの若き革命家フィデル・カストロと出会う。
そこで、大いに影響を受けアルゼンチン人でありながら、キューバ革命に身を投じる。
フィデル・カストロの革命は、真に民衆のための革命であった。そして高潔な精神を携えた革命であった。

フィデルは機関銃のように言葉を乱射し、重戦車のキャタピラが大地にその重みを刻印していくように
自分の頭の中にあるイメージを人々の心の中に刻み込んでいった。
フィデルは喋りまくる戦士だった。自分と向き合って考え、他人と向って喋ることは、
フィデルにとって闘い以外の何物でもなかった。
銃をとって立ち上がるまえに、フィデルはまず勝利しなくてはならなかった。
人を納得させ、その気持ちを突き動かし、その肉体を自分の戦線に引き込むことなしに、真の蜂起も
もちろんその結果の勝利もありえないことをよく承知していた。
フィデルは体を張って人と向き合った。だからこそフィデルの話術には熱があり、力があった。

一方、チェ・ゲバラは文筆家であった。
彼の記録が詳細なのは日記や詩・手紙等々、様々な出来事が詳細に彼自身によって記録されているからだ。
そして詩人でもあった。
ゲバラフィデルに送った詩は、革命詩人ネルーダの影響を強く受けている。

さあ行こう
夜明けの熱烈な預言者として
未知の密かな道を進み
君が熱愛する緑のカイマン(キューバ)の解放へ

さあ行こう
マルティの反逆の星に満ちた
額で恥辱を打ち破りながら
勝利か死かを誓おう    (中略)

君の声があちこちに
農業改革、正義、パン、自由を広める時
その時、君のそばに我々がいる
みんなの声に合わせて

やがて圧政の掃討作戦が
最終段階に入るとき
その時、君のそばに我々がいる
最後の闘いを待ちながら

キューバに潜入した82人の革命の戦士は、間もなくバチスタ軍の総攻撃を受けて壊滅的打撃を受け
82人だったメンバーが一度に12人まで減ってしまう。
それでも一度立ち上がった勇士はひるまない。
人民を説得し革命の波を起こしていき、ついには一万人ものバチスタ軍を打ち破って政権を樹立する
食糧や資源を欲しいままにして中南米から搾取してきたアメリカにとって、
民衆が自立することは非常に都合の悪い出来事であった。
したがって、当時日本に伝わる情報も、かなり歪められていたように思う。


夢と希望と情熱と...こんなにも純粋に熱い生き方をした人々が現実にいたのだ。
それも、ムイカリエンテが生まれるわずか数年前の出来事である。
歴史を紐解けば、世界中で「革命」が数限りなく起こってきた。
しかし、最後まで理想を一貫して革命は、ほんの一握りではないだろうか?
新しくできた権力が腐敗してしまったり、世代が代わって精神が希薄になったり...
キューバ革命は、その精神を貫いているように思う。


いったい何が違うのか?
それは、常に貧しい民衆のためという精神にブレがなかったことではないだろうか...
人間は、ともすると自分が中心になってしまう弱い部分がある。
ゲバラは、一国に限らず中南米全体のことを意識していた。
夢なかば、ボリビアで様々な裏切りにあい、倒れることになるが...


今は武装して戦う時代ではないが、貧しき人々のために、抑圧される人々のために
自らの命をかけて戦った彼らに学ばねばならないことはたくさんある。
一人では何もできないのだという無力感を植え付けられて育った我々の世代。
しかし、世界を動かしてきたのはいつでも本気になって戦った一人からはじまっている。
自分に何ができるのかはわからないけれど、まずは弱い自分を革命することから始めなければ...