スメタナ『わが祖国』

N響定期演奏会のチケットを入手しNHKホールへ...
若き日によく聴いた『わが祖国』を鑑賞。
指揮は、チェコの巨匠 ラドミル・エリシュカ 
この作品の第2曲『モルダウ』は有名で、よく演奏されCMにも使われたりするが
全曲を通しての演奏は非常に珍しいという。N響では12年ぶりとのこと。


指揮者が現れると大きな拍手が沸きあがる、そして指揮棒を振り上げた瞬間の静寂
この刹那の緊張感がいい。
2基のハープの美しい二重奏から始まり、管楽器が加わっていく。
弦楽器が響いた瞬間に、胸に熱いものがこみあげてくる。
強風にあおられ流れていく雲。風になびいて波打つ麦畑。
時に激しくときにゆるやかに流れ行く大河モルダウ
目を閉じれば、翼を広げてその大自然の中を自在に飛んでいくような心地になる。


病で聴覚を失ったスメタナが、音のない世界で自由に心に描いた景色を五線譜に記し
時を超えて、音楽となって立ち昇り、空気を震わせて、われわれの心を震わせる。
音楽という奇跡の中に身をおいて、生命が幸福感に包まれていく。


チェコの民衆は時代に翻弄されながらも、祖国を愛し音楽を愛して闘い
あの無血革命"ビロード革命"をも成し遂げたのだ。

すべては音楽から生まれる (PHP新書)

人間は、生きていくうえで様々な事態に出遭う。
時には困難と向き合わなければならない。
銀のスプーンをくわえて生まれてきたとしても、
どんな風光明媚な場所で暮らしていたとしても
難事の連続であるという人生の本質や、
この世で生きることの辛苦から逃れることはできないのだ。
だが、幸福の座標軸...たとえば「喜びや美の基準」をいったものさし..
が自分の中にあれば、日々の難事や苦しみは、ずいぶんとやわらぐのである。(中略)
この世は、ままならぬことばかりである。
自分の理想とはほど遠い現状に憤慨や焦燥、諦念を覚えることも少なくはない。
だが、座標軸があれば周りがどう思おうと関係ない、という潔い強さを持てる。
「周りがどうあろうと、自分の中から光を発し続けていればいいのだ」
という域に達することができるのだ。
その光源たりえるものとして、音楽はある。(中略)
強いられるのではなく、自らの内から生まれてくる、祈りにも似た感情。
そっと目を閉じ頭を垂れたくなるような、神々しさ。
もはや言葉では言い表せない。そして、言葉にならないからこそ、信用できる。
それが祈りのような音楽の正体である。
茂木健一郎『すべては音楽から生まれる』

心に音楽を響かせて、あらゆる困難に立ち向かって行こう。
「自分の中から光を発する」ことが大事なのだ。


今週は芸術週間
11日は、銀座でフラメンコのライブ
15日は、再びNHKホールで、ハンブルグバレーを観賞する予定。
古の人たちが自らの生命を映した芸術を
鍛錬を尽くし、心を尽くして表現するアーティストたち
音楽も安易に入手し再生できるご時世ではあるが、やはり生の演奏がいい。


音楽の中に身をおいて、自分は今の困難にいかにして挑むかじっくり考えよう。