情熱のピアニスト

ステージに現れた黒づくめの男は、きれいに禿げあがった頭 ビア樽のような体躯で
およそピアニストというイメージからは大きくかけ離れていた。
ピアノの前に座ると、これからピアノと格闘するのだと言わんばかりに手首をぶらぶらと大きく振り、
鍵盤の前にかがみこむようにして構える。
しかし、演奏が始まるや、その音に圧倒されてしまった。
鍵盤の端から端まで使い、ある時は右手と左手が重なりあうような激しい動きの中で
或る時は腕を大きく振り上げ、ある時は体ごと跳ねるように、指は自在に鍵盤の上を叩いていく。
手首から先が別の生き物のように繊細である。
プロコフィエフ作曲 ピアノ協奏曲第3番

たまたま、彼自身の演奏がYouTubeに出ていたので掲載しておく。オーケストラは違うが...
聴衆の心をぐっと引きよせ、演奏が終わった瞬間に会場は絶賛の拍手が響きわたる。
いや〜 熱い演奏だった!


最後の曲は、学生時代によく聴いたチャイコフスキー交響曲第6番『悲愴』
レコードが擦り切れるくらい聴いた曲のひとつである。生で聴くのは初めて。
解説によると、「報われぬ愛」が主要テーマのようであるが
第一楽章の深いため息のような始まりから、第二楽章の美しく幻想的なワルツ
第三楽章で、なぜか勇壮なマーチが現れ、第四楽章で再び深く激しい哀しみへと沈んでいく。
その絞りだすような哀しみは、貧しく悲しいことが多かった中学生のムイカリエンテの心に
深く刻まれていた。
演奏が終わった瞬間、指揮者の動きが止まり息の詰まるような静寂とともに、哀しみが心に刻まれる。
素晴らしいフィナーレだった。