悩む力

朝起きた瞬間の、胸を絞めつけられる動悸は、
嘘のように消えた。
満員電車にゆられての通勤生活は、
行き先が変わっただけで気分が変わった。
先月までいた会社と比較すれば、
すべてにおいてまともな会社であるし、
働きやすい雰囲気だ。


しかし、我にかえってみると何かおかしい。
浮かれているというか油断しているというか...
これでいいのだろうかという思いが、心の片隅にくすぶり始める。


あれだけ悩み、自分とは何か?仕事とは何か?自分という人間の宿命とは...悩み苦しんでいたのに...
後から思えば、苦しいときほど物事をよく考えたし、本も貪るように読んだ。
悩む力 (集英社新書 444C)

私は 青春とは無垢なまでにものごとの意味を問うことだと思います。
それが自分によって役に立つものであろうとなかろうと、社会にとって益があるものであろうとなかろうと
「知りたい」という、自分の内側から湧いてくる渇望のようなものに素直に従うことではないと思うのです。
そこには挫折や悲劇の種がまかれていることもあります。
未熟ゆえに疑問を処理することができなくなって、足元をすくわれることもあります。
危険なところに落ち込んでしまうこともあります。
でも、私はそれが青春というものだと思うのです。
                          姜尚中『悩む力』

少しばかり好転したくらいで、いい気になってはいけない。一喜一憂の生き方は愚かだ。
人生への真摯な追及を忘れてはならぬ。そこに危険が潜んでいたとしても...
そうでなければ、心が老いてしまう。


『悩む力』に関連して、姜尚中石田衣良の対談がある。

石田:悩んでいること自体が、かっこいい言い方をすれば、
   それを超越することへの意思があるということなんですね。
   よりよい自分、あるいは別な自分に対する憧れを持っているということなので、
   逆に言うと、悩むことができる人は、可能性がある人だと思います。
   どんな問題でも悩む力があればそれを乗り越えられるんですよね。
姜 :同感ですね。悩む力は生きる力で、生きるということは悩むことになるんだから。
   戦後日本はあまりにも成功すたんですよ。だから悩む時間をつくってこなかった(中略)
石田:日本の国全体がいま悩んでいる最中なんですよね。
   なので、悩むときは明るく悩んでほしいですね。
姜 :悩んでいる自分を悩むことはないんですよ。
   フランクルは「人は相当の悩みにも耐える力を持っているが、意味の喪失には耐えられない」
   という趣旨のことを言っていますが、人間は生きる意味を見出すために生きているために生きているわけだから。
石田:明るく悩めば突き抜けられますよね、どこかで。
姜 :突き抜けられますよ。いちばんいけないのは中途半端に悩むことで、中途半端に悩むと結果はひどいことになる。

自分を高めていくには、悩まなければならぬ。
悩むこと止めたら、情熱を燃やせなくなったら、人生はそこで終わりだ。


自分の内なる怠惰と闘わなければ...