人生を変える出会い...宮本輝先生

同僚のSさんが急遽現場に入ってくれることになり、20日ぶりの休暇をとることができた。
今日は、憧れの宮本輝先生のトークショーに行けることになった。
あまりにも現場が忙しいので無理かな?と諦めかけていたが...
人生を変えた偉大なる小説家と初めてお会いできた歓びは、言葉にできない。

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あれは大学2年生の夏だったと記憶している。
映画「泥の河」が公開になり、ある先輩が絶賛していたのを聞いて興味を抱いた。
しかし、学費稼ぎで精一杯の貧乏学生だった私には、2時間で終わってしまう映画に
お金を払ってしまうのは、ひどく贅沢のように思えたので
映画は結局行かずじまいだった。
その後、横浜駅の本屋でそのタイトルを見かけ、
原作を読んだのが宮本文学との出会いだった。
最初の数ページで、心を鷲づかみにされたような衝撃を受けた。
それからというもの、宮本先生の本は出版されるごとに全て購入して読んできた。
生命という深遠なるものを、優しく美しい文章で書き綴られていく文章には
魂を揺さぶられ、涙がとめどなく流れる。
宮本文学の言葉の一つ一つが、ムイカリエンテの生命の底流に流れている。
文学とは虚構の世界であるが、その虚構の世界の中で遊び・楽しみ・悩み・悲しみ...
そして苦悩の中から歓喜を生み出してきた。
宮本先生の小説を論評したり、解説したりすることはできないが
宮本文学と出会えたことは人生の中でも最も大きな幸福の一つであることは間違えない。
いつでも人生とともにあったし、死して後も
イカリエンテの生命には宮本文学の一言一言が刻まれて残るのだと思う。

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初めてお目にかかる宮本先生は、思ったとおりの人であった。
写真で拝見するよりも柔和で深い眼をしておられた。
苦労に苦労を重ね、闘ってこられた方の顔であった。
「ああ自分もあんな顔のオジサンになりたい」と思った。
これまでの御礼を伝えたくて
受付けに手紙を託し、舞台の下からずっとずっと
心の中で「ありがとうございました」と、頭を下げ続けていた。