ひとりゆかむ

富山に入ったのは、昨夜の20時頃だった。
最初の訪問から1年...四季を通じて20回近く通い、慣れたような気がしていたが
夏の終わりとともに、
そこかしこで冬の胞子が芽生えているようで
よそ者の自分は、無性に物悲しい想いにつつまれる。


夜の街を歩いたけれど、行きつけの店は休み
イチゲンで入った店...
カウンターで一人、ハタハタと万願寺を焼いているうちに
なんだか寂しくなってきて、早々に店を出る。

午前中から客先に入り、現場で装置の設置と検査
仕事は順調に終わり、帰途につく。
疲れていた...
怒涛の週末...土曜日も休むことなくK大学のボランティア
そして、日曜日の出張
不甲斐ない日常に、気力も衰えきっていた。
アルコールを1本だけ飲んで、そのまま特急電車のシートに倒れ込む。


どれくらい眠ったのか...
ふと目を開けると、西の空の縁が赤くなっていた。
朦朧としながら写真を数枚...
そしてまた眠った。

ひとりゆかむ   石川啄木


日はくれぬ。
(愁《うれ》ひのいのち)
幻想《おもひ》の森に、いざや
ひとりゆかむ。
万有《ものみな》音をひそめて、
(ああ我がいのち)おもひでの
妙楽《みょうがく》の夜 あまき森。
  (夜のおもひ
   いのちのおもひ)


恋成りぬ。
(夢見のいのち)
忘我《われか》の森に、いざや
ひとりゆかむ。
花瞿粟《はなげし》にほひゆるみて、
(ああ我がいのち)つく息の
みどりうす靄ゆらぐ森。
  (夜のにほひ
   恋のにほひ)


恋破《や》れぬ。
(なげきのいのち)
祈りの森に、いざや
ひとり行かむ。
面影、いのるまにまに
(ああ我がいのち)天《あま》の生《せい》
あらたに香《かほ》る愛の森。
  (夜のいのり
   いのちのいのり)


月照りぬ。
(あでなるいのち)
幻想《おもひ》の森に、いざや
ひとりゆかむ。
ほのぼの、月の光に
(ああ我がいのち)故郷《ふるさと》
黄金《こがね》花岸うかぶ森。
  (夜のいのち
   ああ我がいのち)


夜のおもひ いのちのおもひ
夜のいのり いのちのいのり


美しい夕陽の向うに
なにかが見えたような気がしたが
それが何なのか
もう覚えていない


そして... 
ひとりゆかむ
ひとりゆかねばならない。