桜咲く

街のここそこで、桜が開きはじめた。
辛夷木蓮・桃・桜...
冬の間に溜めてきたエネルギーを
一気に噴出するように
それぞれの花を開いて、
春の風に吹かれて揺れている。
染井吉野は、いつもより少し遅いらしく、
まだ開き始めたばかりで、
今咲いているのは他の品種らしい。
イカリエンテは、この早咲きの桜の方が色が濃くて桜らしいなと思う。
今では日本の桜の九割が染井吉野だし、開花宣言染井吉野を基準にしている。
しかし、これは意外と新しい品種だそうだ。


桜に生涯をかけた笹部新太郎をモデルにした、水上勉の『櫻守』の中で
竹部(笹部)は、染井吉野をこう評している。

竹部にきいてみると、これは日本の桜でもいちばん堕落した品種で、
こんな花は、昔の人はみなかったという。
本当の日本の桜というものは、花だけのものではなくて、
朱のさした淡みどりの葉と共に咲く山桜、里桜が最高だった。
染井吉野は、江戸時代の末期から東京を中心にして、埼玉県の安行などもふくめて、
関東一円に普及し、全国にはびこるにいたった。育ちも早くて、植付けもかんたんにゆく。
竹部にいわせると足袋会社の足袋みたいなもので、苗木の寸法、数量をいえば、立ちどころに手に入る品だ。
値段も安くて、病虫害にもつよい。
山桜や里桜では薬害の可能性もある駆除薬剤のどんな刺戟のつよいものにも染井は耐える。
桜の管理にあたる者の何より喜んで迎えるのも当然であったろう。
「まあ、植樹運動などで、役人さんが員数だけ植えて、責任をまぬがれるにはもってこいの品種といえます」
と竹部は染井をけなした。
 「だいいち、あれは、花ばっかりで気品に欠けますわ。ま、山桜が正絹やとすると、染井はスフいうとこですな。
土手に植えて、早うに咲かせて花見酒いうだけのものでしたら、都合のええ木イどす。
全国の九割を占めるあの染井をみて、これが日本の桜やと思われるとわたしは心外ですねや」
竹部は、このエドヒガンとオオシマザクラの交配によって普及した植樹用の染井の氾濫を、
古来の山桜や里桜の退化に結びつけて心配しているのであった。
「まあ、これも、役人さんや管理する人の知恵の無さからどすわ」

堕落した品種ってのは、ちょっと酷評のように思うが...
染井吉野が古来からの桜だと思っていたのは思い違いだった。
万葉集なんかに出てくる「桜」は染井ではなかったということになる。
吉野山の山桜も、一度見てみたいな〜
三重にいた頃だったら、見にいける距離だったのだが...行かなかった。
惜しいことをした。


今日の桜↓