大五郎さん

三月初旬に工事が終わった足立の仕事。
最後の大掃除に駆り出され久しぶりに現場へ..
現場事務所の撤去から始まり、
場内の清掃やナットのしまり具合の点検など
1日かけて工事の後をきれいにする。
深さ13mの水槽を梯子で上り下りすること12往復。
ビルで言えば50〜60階の高さまで壁伝いに梯子で昇って降りた計算。
腕と肩甲骨がパンパンになる。


休み時間携帯が鳴る...愛知の大五郎さんから、仕事の電話だった。
大五郎さんは愛知県の半田市で、醸造用品や機械を販売する会社を営んでいる。
知多半島あたりは、江戸時代までは灘よりも酒造りが盛んだったところで
酒造会社や醤油・味噌・味醂・だしなど、中小の会社がたくさんある。
創業数百年という会社もいくつもあって、ここに機械や消耗品を売るには
メーカーがいきなり飛び込んでいってもなかなか入れない。
そこで、古くから地元に基盤を持つ業者が必要になる。


当時フィルターメーカーにいたムイカリエンテ...
会社が新しく開発した自動濾過装置を売るため、いろいろな業界に提案していく中
神戸のTさんから紹介された大五郎さんが日本酒の濾過に使えるのでは?と提案してくれ、
某大手の酒造会社に実験させてもらえるよう交渉してくれた。
日本酒の業界は保守的で、旧式の機械を大事に使っているため、
新しい機械はなかなか受け入れられないのだが、そこをうまく交渉してくれた。
そこから、酒蔵に籠っての長い実験が始まった。
会社の設計担当は、現場の状況は把握していないし、水での実験しかしていないので、
現場で機械を操作し思考錯誤しながら試していくのはムイカリエンテの仕事。
様々な条件設定をして酒を流しては失敗し、また条件を変えてという繰り返し。
一日中お酒の匂いのする酒蔵で、大量の日本酒をホースから流して実験は続いた。
濾過して出てくる酒を何度も味見して酔っぱらってしまったりして..
機械を改良しながらの実験は、数ヶ月にも及び、やっと納入できる仕様が完成。
従来の機械と入れ替えて納入することができた。
大五郎さんとの思い出は数え切れない。



クビを切られて8年...
あれからいろんなことが始まったな...
波の少ない内海で好きなように暴れていたら、いきなり外洋に放り出されて..
何度も沈みそうになりながら、なんとか生きている。
大五郎さんの懐かしい声を聞いて、いろんなことを思い出した。