宮本輝のエッセー

『二十歳の火影』を出張先のブックオフでみつけて買い電車で読んだ。
二十歳の火影 (講談社文庫)
輝ニストとしては、初版本を自宅に大事に保管してあるのだが
このエッセーは何年も開いていなかったかもしれない。
手に取るように内容を覚えているものもあるが
うろ覚えのものもあって、新鮮な気持ちで読み返した。
表題作の『二十歳の火影』はたった4ページのエッセーだが
言葉の一つ一つの凄みには、圧倒されてしまう。
生涯のうちに小説のひとつでも書いてみたいなどと思ったこともあるが
こんな文章を読んでしまうと、
そんな安易な想いなど消し飛んでしまう。
軽薄な商業主義の小説はいくらでもあるが
そんな小説を読んでいると、自分まで軽薄になっていくような気がする。
「読む人にとって、なんらかの生きるよすがにならないような小説を
 私は一遍たりとも書きたくない」
という彼の一言は、すべての作品に貫かれた哲学である。
もう一度一つ一つ読み返してみたくなった。