また一歩から....

ある日突然、言葉が出てこなくなった。
心がこわばって...一歩も前に踏み出せない。

自分のなかで、生命そのものが濁っていくような重苦しい感覚。
たとえば、道端に咲く花を見て、視覚では美しいと感じるのに、
心は歓びを感じていない。
宮崎からの帰りに飛行機から見えた景色が素晴らしかったのに、
ちっとも嬉しくはならず、かえって哀しみがわきあがる。
仕事でも、嫌なトラブルばかりが続いて、気持ちが深みに沈んでいく。


金曜日...出先での仕事が早くに終わってしまい、気分転換で髪を切りに川口へ...
半年ぶりにヤスコさんに会い、パーマとカットをお願いする。
とりとめのない、脈絡がたまに途切れる彼女の話を聞いているうちに、少し落ち着く。
ロッドを外したら、ちょっときつめだったか...髪がくりくりになっていた。
これも気分転換でいいか...


湘南新宿ラインで帰る途中、ふと恵比寿のK君の顔を思い...会いたくなってメールをする。
7:30には戻るというので、本屋で時間をつぶしてから成城石井で焼酎「晴耕雨読」と惣菜とオリーブを買って、恵比寿の事務所へ...
レンタルルームの下見のお客さんが帰るのを待って、久しぶりに二人で酒を飲む。
二人で飲むのは、1年ぶり...去年の今頃、どうしようもなく落ち込んでいた時に、彼が誘ってくれた。
その前に二人で温泉に行ったときも、そして鎌倉を二人で歩いたときも
いつでも、励ましてもらう側だった。
K君の方が、ずっと重い荷を背負っているのに...  
ありがたいという気持ちと情けない気持ちが重なり、ろれつが回らないほど飲んでしまう。


人と会わなければ...語らなければ..知らず知らずのうちに生命は停滞して酸素が欠乏し、腐敗が始まる。
少し元気を取り戻して...そして、最後に励ましてくれたのは、まど・みちおさんの詩だった。
まど・みちお全詩集<新訂版>

「もうすんだとすれば」 まどみちお


もうすんだとすれば これからなのだ
あんらくなことが 苦しいのだ
暗いからこそ 明るいのだ
なんにも無いから すべてが有るのだ
見ているのは 見ていないのだ
分かっているのは 分かっていないのだ
押されているので 押しているのだ
落ちていきながら、昇っていくのだ
遅れすぎて 進んでいるのだ


一緒にいるときは ひとりぼっちなのだ
かましいから 静かなのだ
黙っている方が しゃべっているのだ
笑っているだけ 泣いているのだ
ほめていたら けなしているのだ
うそつきは まあ正直者だ
おくびょう者ほど 勇ましいのだ
利口にかぎって バカなのだ
生まれてくることは 死んでいくことだ
なんでもないことが 大変なことなのだ

なんでもないことが、素敵だったりすることを
まどさんは、いつも教えてくれる。
だから、もう少し頑張ってみようか...そう思わせる文章だ。
こんな簡単な理屈を、ついつい忘れてしまう自分は、やはり愚か者だ。

そしてもうひとつ...

「さくらのはなびら」   まど・みちお


えだを はなれて
ひとひら


さくらの はなびらが
じめんに たどりついた


いま おわったのだ
そして はじまったのだ


ひとつの ことが
さくらに とって


いや ちきゅうに とって
うちゅうに とって


あたりまえすぎる
ひとつの ことが


かけがえのない
ひとつの ことが


おわりがはじまり。。。
生命というものはながれであって、形を変えながらも、ずっとずっと続いていく。


もう一歩、あと一歩...歩いていかなければ...
かけがえのない友人に感謝...命を慈しむ詩人に感謝


また 歩き始められそうだ

↑5年前に三重で自分撮りした写真...Facebookに載せたら、意外と喜んでいただいたので
載せておきます。