雪のしたの蕾

天気予報どおりの大雪だった。
駅から会社に向かうバスは、
順調なら20分の道のりだが、
今朝は2時間...
遅れたついでに
雪の道を歩いてみたくなって
手前の停留所で降りて、裏道を歩いた。


畑の片隅で大きく枝を広げたその梅の木は、
雪の重さでしなって、風に揺れていた。
近づいてみると、枝いっぱいに蕾をつけていた。
一旦は、春のような陽気になって、きっと開き始めたのであろう。。。
不意の寒さと大粒の湿った雪...その下で、花はじっと耐えていた。


バスの中で、久しぶりに読み始めた山本周五郎の作品...
栄花物語 (新潮文庫)
江戸中期の老中田沼意次が、この物語の主役ではあるが
山本周五郎の筆は、英雄だけを描かない...
そこには必ず弱く貧しい人々の精一杯な生活が描かれている。
日雇い人足の千吉は、その日暮らしのぎりぎりの生活の中で、
爪の先のような手間賃から上前をはねる役人に対して
逆上して抗議してしまったことがもとで人を傷つけ、追われる身に...
家族に害が及ばぬよう、新助と名前を変え、盗賊となって得た金を妻に渡して縁を切る。
ある日、城中の派閥争いに巻き込まれ命を狙われた青山新二郎を間一髪で助ける。
新二郎は、逃げ込んだ宿で新助の来し方を知る。
のたれ死んでもいいという新助が、一番つらいことは、
裏長屋などで、家族が一緒に飯を食べているところを見ることだと、新二郎に語る。
寝てしまった新助の背中に向かって、新二郎はつぶやく。

....眠れよ新助。
彼は、心のなかでそう呼びかけた。
...人間はみんなおまえと似たりよったりだ、誰もがそれぞれの意味で、怒りや悲嘆や絶望をもっている。
人間とは元来がそういうものらしい、人間であって生きている限り、そういうことからは逃れられないらしい、
...眠っているときだけが安息だ、ゆっくり眠れよ新助。
                  山本周五郎栄花物語

眠らなければ...