金木犀とクジャク

いつものように早く目覚め、
いつものように朝食をとり
しばらくさぼった日記のまとめ書き。
記憶をたどるうちに、なんだか嫌になって
ふとんにもぐりこむ。
そのうちに寝てしまい、気がついたら5時間も昼寝。
寝ている間だけは思考が止まり、嫌なことも考えくてすむ



母から買い物を頼まれていたので、外に出かける。
青空の下、金木犀が甘い匂いを放っている。


風が吹くたび、ぱらぱらと音をたててこぼれる小さな花弁を見て
クジャクの詩を思い出す。
オレンジ色の宝石が、風にふかれてまたおちる。
地面がそこだけオレンジいろに染まっていく。

クジャク    まど・みちお


ひろげた はねの
まんなかで
クジャクが ふんすいに
なりました
さらさらさらと
まわりに まいて すてた
ほうせきを 見てください
いま
やさしい こころの ほかには
なんにも もたないで
うつくしく
やせて 立っています

自分にとって大事なものを
まいて捨てたら
自分にも、やさしいこころだけ残るだろうか?


夕方、ひとりで実家に行く。
そこに、妹と26歳になる姪、そして姪の彼氏I君がたまたま訪れる。
初対面のI君は29歳...目元の爽やかな好青年である。
仕事のことを聞こうとして、ふと思いとどまる。
自分のことを聞かれるのが嫌だから...相手にも嫌な思いをさせるし...


そして、皆で食卓を囲む。
母の料理は山菜や野菜中心の質素な料理ばかりだが、自分にはとても懐かしい味

納豆売して働いた
赤い銅貨が二十五枚。


袋はりして働いた
小さい白銅が五枚ほど。


みんなあはせて夕方に
御飯を炊いて食べました。


母さんと子供と にこにこと
御飯を炊いて食べました。

                「小さな家族」まど・みちお

いずれ家族になるであろう青年に
母が昔のアルバムを見せながら、家族の話しをしている。
貧しかったけれど、幸せだったような気がする、モノクロの少年時代。