職人の意地

午後からK大学の支部会議
今回からは招集の連絡から確認、資料作り・そして議事進行までやらねばならない。
前任の方々の苦労がわかる。仕事しながらこれだけやるのは大変だな~
17:00終了、そして懇親会。
ハイボール一杯で、一回くじが引けるので1等をもらうまで...と5杯か6杯飲んでしまった。
当然のことながら..泥酔。くじも当たらず...



宮本輝の最新作『三千枚の金貨』を読んでいる。
ある桜の木の下に三千枚の金貨を埋めた男の話で始まる。
偶然ではあるが、また「桜」である。
宮本文学らしく美しく深い文章に心を波打たせながら、ゆっくりと読み進めている。
この本については、また後日書こうと思う。


その前に、先日の『櫻守』について、大事な部分を書いていなかったので
前回の続きということで...

櫻守 (新潮文庫)

櫻守 (新潮文庫)

桜に魅せられ、桜に生涯をかけた男、竹部庸太郎。
その竹部のもとにある男が訪れる。芹崎哲之助、電源開発の元会長である。
岐阜の御母衣に巨大なダムができ、山間の村が湖に沈む。
ここにある樹齢400年の桜を、高台に移植してほしいとの依頼だった。
これは実話に基づいている。


元々桜の移植は、非常に難しい。しかも桜の一般的な寿命は50年。
巨大な老桜を移植するなどというのは、世界にも全く例のない暴挙であった。
しかし、芹崎の意気に感じて、竹部は引き受ける。

「世の中に、物事で絶対にそれがあかんということはおへん。
四百年以上たった桜の移植は、そら暴挙に等しい、といわれれば、私もわかります。
けど、絶対に根がつかんとはいえまへん。
早い話が、こんどの戦争で死ぬと思うて、覚悟をしていた人でも、生きのびています。
わたしの中之島の家やって、もうあかんと思うてましたけど、焼け残りました。
絶対に生きてはおれんと思うておった人が、仰山生き残って、闇屋したり、かつぎ屋したりして生きてはります。
人間の命というもんは、絶対絶命の場におかれても生きぬけていけるもんや、
ということを、この戦争で教わりました。
木イも人間と同じやおへんか。絶対につかんといわれるもんでも、ひょっとしたら、ということもおやすやおへんか。」

世の学者は口をそろえて、否定し嘲笑した。マスコミも便乗して騒ぎたてた。
住民からでさえ反対の手紙が届いた。無駄な金を使うなら補償に回せと..
世間の風評などというのは、いつもこうである。
真剣勝負で闘う当事者にしかわからない苦労も格闘も知らないくせに、
外野の火の粉のかからない安全な場所で物知り顔で批評する。

竹部はつぶやく

桜の移植は、それほど愚挙だろうか。むしろ祖先の土地、幼時から愛着をもってきた村であるからこそ、菩提寺の庭に育った桜を移植したいのである。
四百年ちかくも生きた桜であればこそ、村の魂ではないのか。
おそらく、あの二本の巨桜は、いま、水没反対を叫んでいる人たちよりも古く生き、
長い間、荘川の流れを眺めてきているはずだった。
大事にしなければならないのが生命だとしたら、あの桜こそ大切なのではないか。

竹部は負けなかった。人生をかけて全財産をかけて研究してきた桜の知識と経験を
ここにすべて吐き出して、闘った。そして勝った。
世界でも初めての事業...それも二本の桜を見事に移植させた。


ダムができた後も桜の木の下には、多くの人々が集まってくるようになる。
実話なので、検索したらすぐに見事な桜の木が出てきた。
http://www.sakura.jpower.co.jp/
小説の中の竹部は、桜学者笹部新太郎、移植の依頼者芹崎哲之助は高碕達之助
主人公北弥吉は実在の人物ではない。


美しい小説だった。
情景も...そして京都弁も...何より登場人物の生きざまが...


一度、桜の季節に行ってみたいな