梅@ふるさと村

冷たい雲に覆われた日曜日の午後
滋賀にいても、横浜にいても
このところ、すっきりした晴天の日が
あまりにも少ないように思える。


なんとなく心も沈んでしまう。
出張の合間の週末は、忙しいのだが
春の気配を探しに、家から近いふるさと村へ..


鉛色の空の下、まだ色のない田園を眺めながら歩いていくと
一番奥の小さなくぼみに、春が浮き上がっていた。


どんなに厳しい冬でも、その後に必ず春は来るはずだけれど
あまりにも冬が長いと、それを忘れてしまう。
或いは嘆き、或いは目をそらし、或いは慣れてしまい、冬が永遠に続くようにさえ思えてしまう。
しかし...
この梅の花のように、寒風を突いて湧き上がる生命力を自らの内に持たねばならない。
春は自らの外にあるのではない。
寒さに打ち克って、自らを燃え上がらせる生命の中にあるのだ。

みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働かう
忘れがたい悲しみは忘れがたいままにしておかう
苦しい心は苦しいままに
けれどもその心を今日は一日寛がう
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働かう  (中略)


楽しい春の日はなほ遠く
冬の日は暗い谷間をうなだれて歩みつづける
今日はまだわれらの暦は快適な季節に遠く
小鳥の歌は氷のかげに沈黙し
田野も霜にうら枯れて
空にはさびしい風の声が叫んでゐる


けれどもすでに
すべての悪いときは今日はもう彼方に去った
かたい小さな草花の蕾は
地面の底のくら闇からしづかに生まれ出ようとする
かたくとざされた死と沈黙の氷の底から
希望は一心に働く者の呼声にこたへて
それは新しい帆布をかかげて
明日の水平線にあらはれる
ああその遠くから来るものを信じよう
みんなでつつましく心をあつめて信じよう
みんなで希望をとりもどして涙をぬぐって働こう
          三好達治『涙をぬぐって働かう』


「希望は一心に働く者の呼声にこたへて それは新しい帆布をかかげて 明日の水平線にあらはれる」
冬の寒さを嘆き続ける者には、いつまでたっても春は遠い彼方の幻だ。
希望を持って闘う人にとって、春はいまここにある。


宮本輝の『朝の歓び』の一場面。
精神に障害をもつ青年の姿に、主人公は人間の強さを思い知らされる。
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20080316
「地獄の中で勝つ」という言葉の深さを改めて思う。

悩み抜く葛藤
その土壇場のエネルギーは
かならず
地の底を蹴って
希望の大地にも立たせるだろう

植物状態の青年 岩崎航氏が書いた五行歌は、そのひとつの証明だ。


希望を忘れずに前へ前へ...