その旅館の入口の引き戸を開けて、おもわず唸った。
重厚な木材で作られた玄関の正面に、金の衝立があり
そこに、なんともいえぬ上品な花が生けられてあった。
5月末にテルニストの仲間が弁当を頼んだという割烹旅館の
建物がとにかく素晴らしいと聞いて、朝電話をして弁当を頼んだのだった。
しかし、こんな立派な旅館に弁当一個頼むとは...
知らずに電話したとは言え、ちょっと恥ずかしくなって
弁当をお願いしたものですが...と言うと、従業員の若い女性が奥から弁当を持ってきてくれた。
玄関にあがって、代金を払いながら周囲を見回して
すごい建物ですね〜とため息をもらすと...
よろしかったら、見学して行かれますかと聞かれ、お客様が入る前の各部屋を丁寧に案内してくださった。
部屋ごとに異なる設え、木材の凄さ、床の間の趣味のよさ、欄間の彫刻の美しさ...
ほんとうに素晴らしい旅館だな
弁当ひとつで、ここまで案内していただいて、これからお客様を迎えるのに
申し訳ないと思って、何枚か写真を撮らせていただいたが...
お礼を言って駅に戻り、待合室のベンチでお弁当をいただいた。
生地でくんできた湧水を飲みながら...
『約束の冬』(宮本輝著)は、
留美子が亡くなった父が50年100年経った古い家を壊して残った材を集めて建てた家に
引っ越してくるところから物語が始まるのだが、
この小説を読んだとき、こんな家で過ごしてみたいなと思ったものである。
留美子の弟、亮は、コンピュータ関連の大手企業を突然退職して「木工」に生涯をかけると決め
木を学ぶために、大分の製材所で働き始める...
木を育て、切り倒して、製材して、それが家具などになるまでの気の遠くなるような時間に、
仕事というのは、そうやって、世代を超えて成していくものだと思ったものだった。
- 作者: 宮本輝
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職人に憧れを持ちながらも、そんな勇気もなくサラリーマンの道を選んだ自分ができるのは
手慰みで木をいじることくらいだが...
インターネットのおかげで、素人には手にすることのできなかった高級素材が入手できるようになった。
この木にしても誰かが後生のために植え、育てたものを切って、家具などになり
その端材がこうして手元に届くようになったのだ。
どこに生えていたものかもわからないけれど、大事に自分の作品を作って行こうとおもう。
最近、自分用に作ったチョーカー
アフリカンブラックウッドと黄楊
ちなみに、敷いているのは、トップの踊っている写真のスカーフです。
今日の日記はこれだけ...(実際には18日に寄ったのだが、前日の日記が長いので、次ページに書きました)
あとは写真をご覧下さい。