雪原と満天の星と...

丘を越えて、林道を抜けると、突然視界が開けた
見渡す限りの真っ平らな雪原が、はるか彼方まで広がっていた。
それは、初めて見る新潟平野の雪景色だった。

ふと子供の頃の記憶が蘇る。
新潟の海沿いの町にある父の故郷へ、夏休みになるごとに遊びに来た。
電車の窓から見える景色は、どこまで行っても青々とした田んぼばかりだった。
無人駅まで迎えに来た叔父が運転する、耕運機の後ろに繋いだリアカーに乗って
祖母と叔父の家族の家に行くまでの間も、見えるのは田んぼだけだった。
40年前に祖母が亡くなり、その後、父の商売が厳しくなったこともあり
それ以来、ぱったりと来ることはなくなった。


あの時見た広大な田んぼは、まったく違う姿になって目の前に横たわっていた。
雪景色は、各地でずいぶん見てきたが、こんなに平らな雪景色は見たことがない
これは人が作り上げてきた景色だからだ。
走っても走っても走っても...延々と続くこの雪原を眺めながら
この日本最大の米作地帯を作り上げてきた人々の労苦と偉大さを思う。


父の生家に寄りたいなと思い、電話をかける。
突然の電話に驚いたようだが、叔父が是非来てくれというので
ホテルは長岡にとって、同僚をホテルにおろし、寺泊に向かう
日が暮れて冷え込んできたというのに、今年81歳になる叔父が、家の前の通りに立って、
いつ着くともわからぬ自分のことを待っていてくれた。


40年ぶりに敷居をまたぐ父の生家には、父の妹も隣町から駆けつけてきて
叔父夫婦といとこの家族もそろって、賑やかな夕食になった。
積もる話しは尽きることなく、あっという間に4時間... 帰りに米と酒、それに菓子折を持たされた。


皆に見送られて、真っ暗な田んぼのなかの道に出る。
空を見上げたら、満天の星が輝いていた。

父は、この星と、あの広大な田園の四季を見ながら育ったのだな...
坊主頭の父が、田んぼのなかを走り、そして星を見上げている姿を思い浮かべた。


認知症の父は、もうここに来ることは叶わないのかもしれない。
でも、この風景をもう一度見せてやりたいな
あの雪原を... この満天の星空を...
故郷の米の味は、覚えているだろうか...
帰ったら、まず米を届けてやろう。


ほとんど車も通らない田んぼのなかに車を停めて星を見上げ、
そして、長岡のホテルに戻った。
街に近づくにつれて、周囲は明るくなり、星の数はみるみるうちに減っていった。


チェックインしてから、ホテルの隣の店で酒を一杯...
新潟に来たのだからと、一番美味い日本酒を...と頼むと出てきたのがこれ

新潟の酒ではなく、愛知県の「醸し人九平次」聞いたこともない酒だが、
若い店長がすすめるのだからと、飲んでみると、これが美味い!
フルーティーで、例えるなら洋梨の香りらしい…


帰ってきて検索すると、日本酒ランキングで、あの「獺祭」「十四代」に続いて第4位
http://www.sakeno.com/ranking/
ネットで探してみたら、みんな売り切れで、手に入らない…
偶然にも、すごい酒を飲んでしまった。
しかも、500円で…
日本酒はめったに飲まないけど...たまにはいいな


翌朝は、早くに起き出して、田園地帯まで出かけ、父に見せる写真を撮っていたら
父の優しい笑顔が浮かんで、ファインダーが曇った。