空の模様

厚い雲が天蓋を覆い尽くしていた。
微細な水の粒を含んだ風が、顔を髪を湿らせていった。
東の空の下には光が射し
西の空の遠い街に、雲が崩れて雨が降り注いでいた。



なんと美しい空だろう...と思う
平和な...雲ひとつない青空など、
この空に比べたら、なんと退屈なことか...


人影もない公園の小高い土塁の頂に立ち
見渡す限りどこまでも続く家々を見渡す。
今日再読した『ファウスト』の願望を想い、
あの屋根の下で生きる人々の、
この空のように一所として同じ色のない
幸福について...不幸について想いを馳せる。

己は自分の心で、全人類に課せられたものを
じっくりと味わってみたい。
自分の精神で、最高最深のものを攫んでみたい。
人類の幸福と苦悩を己の胸で受け止めてみたい。
そして己の心を人類の心まで拡大し、
最後には人類同様、己も滅んで行こうと思うのだ。
  ゲーテファウスト』 高橋義孝


ずっと、この空のような暗雲に覆われた人生だった。
目の前に一瞬現れた陽だまりに気をとられて
右に行ったり左に行ったり、後戻りしてみたり...
しかし、それはいつも幻のように消えてしまい
重い雲だけが、頭上に横たわっていた。


しかし、自分は見上げることをしてこなかった。
ただ、その暗さに慄き、心をつぶしてきた。


今、見上げてみれば、こんなにも美しいではないか
雲の下にいてよかったのだ。
そもそも、南国のような青空は、自分には似合わないな...


「雨の日は、嫌いではありません」
ある方から届いたメールの最初の一行が、ふとよみがえった。