名古屋の蒼い空

久しぶりの名古屋は快晴だった。
白亜のツインタワーの上空を
同じ色の雲が流れていく
なんと蒼空の似合うビルだろう。


蒼空に映えるこの駅ビルが開業したのは
イカリエンテ38歳の誕生日1999年12月20日
名古屋では、初めてできた超高層ビル...
今でも数えるほどしかないので、
数十kmの距離からでもよく見える。
そして、最上階のラウンジからの夜景は見事だ


通勤駅以外では最も乗り降りをしてきた駅
年に数十回...多かった時は100回以上...700回くらいは来ているのかな...
思い出も数えきれないな
多くの人たちと、一緒に訪れ...ここで出会い...ここで別れた...
その時はまた逢えると思っていても、後で気がつけば殆どがもう逢えないのだろうな
ちぎれて消えていく雲を見上げながら
幾人かの顔を、蒼い空間に想い描いてみた



蒼穹の昴

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

中国の清時代 腐敗した政治 衰弱していく社会
激動の時代のなかで、天を見上げて闘った青年たちの物語
宦官として、官僚として、政治家として、革命家として...
生命を燃やして生きる青年の姿が美しい。
実在の人物たちのなかに架空の人物を星のように配しながら
歴史をいきいきと蘇らせ、人生の大事をつきつける。

惟うに一国の善治を成すにあたりては俗儒の論を語らず、
すべからく心に基き命に則り、敬を貫き、庶事万民の利を計るを以てすべし。
天下百姓の安寧なくして何ぞ四百余邦の永泰あらんや。
九職相議して朝に一令を発すといえども、社稷の誹りを得べくんば忽ち夕べに一制を改む。
けだし政事は柔にして和すること、剛にして毅なるに優れる也

架空の人物の言動はつまり、作者浅田次郎氏の希いなのだな...


かつて王宮に仕えた占師の老婆 白太太<パイタイタイ>が
主人公の一人、梁文秀<リャンウエンシュウ>には皇帝に仕える身となることを告げ
「汝は学問を琢き知を博め、もって帝を扶翼し奉る重き宿命を負うておる。
 よいか、文秀。困難な一生じゃぞ、心して矜り高く生きよ」と諭す。


一方、文秀の義弟である糞拾いの少年 李春雲<リイチュンユン>(春児チュンル)には、
「汝の守護星は胡の星、昴...
 幼き糞拾いの子、小李よ。
 汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう...」
と告げる。


文秀は科挙の最高位の試験を奇跡的に合格し進士として、予言どおりの道を進み
春雲は、自ら浄身して宦官となり、様々な苦難を超えて西太后の側近になっていく。


しかし、白太太の春雲に対する予言は嘘であった。
老婆が春雲の将来に見たものは、凍てついた大地に兄弟もろとも飢え死にする姿だった。
父や兄に死なれても、糞拾いをしながら健気に生きる少年に本当のことが言えなかった。

「挙人は上天に通じ、進士は日月をも動かすと言う。
だが挙人や進士にすらそのような力のないことは、他ならぬおぬしが良くわかっているであろう。
それでも、わしは信じたいのじゃよ。
この世の中には本当に、日月星辰を動かす人間のいることを。
自らの運命を自らの手で拓き、あらゆる艱難に打ち克ち、風雪によく耐え、
天意なくして幸福を掴みとる者がいることをな。
春児のいじらしい笑顔が思い浮かぶと、文秀の胸は熱くなった。
「春児には、あいつにはそれができるのか」
白太太は夢見るように空を仰いだ。
「できると信じよう。少なくともあやつは、黄金の寝台に眠る阿哥よりもかわゆい。
そのかわゆさが、必ずや星をも動かす。のう史了(文秀)そう信じようではないか」
   浅田次郎蒼穹の昴』2


運命を受け入れること...
運命に抗うこと...
民のために命を投げ出すこと...
主君に仕えること...
師に随うこと...
悪と闘うこと...
あまりにも多くのことが胸に刺さり
幾度涙を落としたことか...



そして再び頭上の蒼い空を見上げてみたけれど
覚悟の決まらぬいのちには、昴はどうしても映らなかった。