心鎮まる場所

凪いだ海に、淡い空の朱が映っていた。
風の音も海の音も聞こえない 
静謐な空間に心を横たえて
音もなく流れる雲と、軌道に沿って落ち行く夕陽の織り成す
柔らかな色彩の変化を、息をつめて見守りながら、その時を待つ...


やがて眩い陽射しが雲のわずかな隙間を貫き、海が光る。
空が染まり、そして海が染まっていく。
しかし、それはわずか3分ほどのこと...
やがて再び雲の後ろに隠れた太陽は急速に冷めていった。







この場所に魅せられたもの...
それは「待つ」ということが、心を満たしていく豊饒

「待つ」ということ (角川選書)

「待つ」ということ (角川選書)

 「待たない社会」、そして「待てない社会」。
 意のままにならないもの、どうしようもないもの、じっとしているしかないもの、
そういうものへの感受性をわたしたちはいつか無くしたのだろうか。
偶然を待つ、じぶんを超えたものにつきしたがうという心根をいつか喪ったのだろうか。
時が満ちる、機が熟すのを待つ、それはもうわたしたちにはあたわぬことなのか...。
  鷲田清一『「待つ」ということ』


自然の営みも生命の成長も天体の運行も「待つ」しかないことばかりなのに...
人間だけが息せききって走りまわり、「待つ」ことを許さない社会をつくってしまった。
偉大さのない物質主義...息が詰まる。


星が輝き始めた空を見上げて、大きく息をしたら、かすかに海の匂いがした。


BGMをそえてみました