生命のなかの太刀

太刀を抜け
太刀を抜け
太刀を抜け
生命の奥座敷
据えてあるはず

全身筋ジストロフィーの青年、岩崎航(わたる)氏の五行歌である。
Tさんの書き込みをきっかけに読み直し、改めて凄い人だと思う。
呼吸も食事も、機械がないとできない寝たきりの青年から出てくる言葉の強さ
彼の言葉を読むとき、人間にとって、幸福とはいったい何なのだろうと考えてしまう。
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20091220
観念ではとらえることができても、この生命の強さは想像を絶する。
すこしばかりうまく生きられないくらいで落ち込んでいる自分が恥ずかしく思う。


俺はいったい何を求めて生きているというのだろう...
財産か名誉か...安楽な生活か...
青年時代に誓ったことは、そんな乞食根性ではなかったはずだ。
タゴール詩集―ギーターンジャリ (岩波文庫)

私は欲しかった。....口には出さなかったが。あなたが頸に掛けていたバラの頸飾りが。
そこで朝になってあなたが出て行く時には、寝床の上にいくつかの花びらが見つかると思っていた。
そして夜が明けると私は乞食のように、一ひら二ひら花びらか散らばってはいないかと探した。
おや、私か見つけたのは何だったか。あなたが、置いていった愛情の印は何だったか。
花でもない、香料でもない、香水の入った瓶でもない。
それは、焔のように閃き、雷のように重重しい、あなたの大きな剣であった。
若若しい朝の光が、窓から差し込んで来て、あなたの寝た床の上に広がる。
朝の鳥がさえずって「おばさん、何を貰ったの」と訊ねる。
花でもない、香料でもない、香水の入った瓶でもない...あなたの恐ろしい剣だったのだ。
私は、びっくりして坐りこんで考える。
あなたのこの贈り物は、何だろう。それを隠す場所が見つからない。
か弱いこの私は、身に着けるのは恥ずかしい。
それを胸に抱きしめると、私は傷つくのだ。
それでもやはり私に胸に荷おう、この重荷の苦しみの誉れを、このあなたの贈り物を。
今からもう私は、この世に恐ろしいものは何もないのだ、
そしてあなたは、私のあらゆる争いの勝利者にたるだろう。
あなたは、私の伴侶として、死を残して行った。そして、私は、私の生命をその死の王冠として捧げよう。
私の絆をたち切るために、私はあなたの剣を身に着けている。
だからもうこの世に恐ろしいものは、何もないのだ。
今からは、私はつまらない虚飾などをみなかなぐり捨てる。
私の心の主人よ、隅に隠れて、待ったり、泣いたりする事は、もうしますまい。
物腰にも、恥じらいや、しとやかさは、もう捨てよう。
あなたは、私の飾りとしてあなたの剣をくれた。人形のような飾りにもうたくさんだ。
   タゴール『ギーターンジャリ』英語本による散文訳  第52段 渡辺照宏

自分は、薔薇の花びらを探しているうちに剣のことを忘れていた。
剣はもう錆びてしまったのだろうか...
今一度、磨かねばなるまい


重荷の苦しみこそ誉れであるならば
その剣を抱きしめていこう。


春の気配が漂う日曜日に思ったこと...