道程

2013年...新たな年が明けた。
2003年の悪夢...あの突然の解雇より10年目
山の端に落ちていく太陽にに追いすがるように走ったが
一瞬輝いた夕焼けの美しさに心をとらわれているうちに陽は沈み
長い夜が始まった。
2008年1月1日のこと...
あれから5年...長かったな...そして未だ夜は明けず...
しかし、これも旅の道程か...
 
(2007年7月 三重 ともやま展望台の夕陽)


ふと、ダンテの『神曲』の場面を思いだし、本棚から引っ張り出してページをめくる。
神曲 地獄篇 (集英社文庫)

ひとの世の旅路のなかば、ふと気がつくと、私はますぐな道を見失い
暗い森に迷い込んでいた。
ああ、その森のすごさ、こごしさ、荒涼ぶりを、語ることはげに難い。
思いかえすだけでも、その時の恐ろしさがもどってくる。(中略)
だが恐ろしさに胸もつぶれる思いさせたあの谷の行きづまり、
とある丘のふもとへ来たとき、
空うち仰ぐと、太陽はどんな道を通ろうとも人を正しく導くあの光で
丘の肩をすでに包んでいた。
    ダンテ『神曲』地獄篇 第一歌

ダンテは美しい丘を目指すが、途中で獰猛な獣が現れ、もとの森に逃げ帰る。
そこにヴァルジリオの亡霊が現れ、かの山に登る望みのないことを語る。
そして、ダンテに残された脱出の手立ては、ヴァルジリオにすべてゆだねて従うしかない。
それは長く苦しい旅ではあるが、正しい道に帰るため、
地獄と煉獄を通り抜ける案内者になろうと、ヴァルジリオは言い、
ダンテは彼を師として受け入れる。
しかし、やはり自分には無理ではないのかと怖れを抱くダンテ...
ヴァルジリオはそれを叱咤する。

「君の本音をわたしが取り違えていないなら、
君の精神は怯懦に打ちのめされたのだ。
怯懦はしばしば人の妨げとなり、名誉の企てから身をひるがえさせる。
ありもしない敵におどろく獣と同じ。(中略)
なぜに、なぜに君はためらう?
なぜ君の心のうちに、かくも卑怯な心を宿す?
なぜ君は、大胆かつ自由とならぬ?
至福の淑女三人が、天上の広前にあって君のためにかくも心を労し、
またわたしの言葉は、かくも多くのなぐさめを君に約束したのに」
夜の寒さにうなだれた小さな花が、朝日の光を受けると勢いよく起き上がり
茎の上に悉く開くように、私の萎えた力も生色を取りもどす。
かくて、怖れを知らぬ勇気、わが心にみなぎり、自由となった者のように、
私は言い始める。
「おお、私を助けた慈悲深いひとよ!また、かのひとがあなたに与えたまことの言葉に
一刻の猶予もなく従った志篤いあなたよ!
あなたの言葉によって、さらば行こうとの激しい願いに、私の心は駆られ、
最初のもくろみに立ち帰った。
いざ行こう、われらは二人なれど意志は一つ。
あなたこそはわが導者、わが主、わが尊師」
        ダンテ『神曲』地獄篇 第一歌

そして、ダンテは師ヴァルジリオと共に地獄への旅に出る。


師の励ましで、勇気を奮い起こし、
美しい山への近道を通らず、あえて困難な道を選んだダンテ...


長い暗闇の道に、怖気づいている自分の醜い姿が浮かぶ...
あえて選んだのだ... そう覚悟するしかない。
勇気を奮い起こさねば。
昂然と行くべし 夜明け前の道...



(2007年11月 三重 城ノ崎海岸の旭日)