加賀の山々

加賀温泉のリゾートホテル...
6時に目覚めると、東の空が白み始めている。
最高峰の白山を中心に、雪をまとった山脈が東側に横たわっている。
立山連峰と比べると、その稜線は優しく女性的だ
空は雲に覆われていて、旭日は見れそうにない...が、朝焼けは見れるかもしれない。

窓際に椅子を置いて、その時を待つ。
ネットで調べた日の出の時刻は6:57 方位は118度 ちょうど白山の方向だ。
6時半頃...雲の腹が紅色に染まり始める。


30cmくらいしか開かない窓を開けて外に出る。
足元の出っ張りは約15cm その上に乗って身体を縮め、鉄の柵につかまって、
下を見ないようにカメラを構える。
あまりの美しさに、寒さも怖さも忘れて空の色に見惚れる。
太陽の位置によって雲の色が変わっていく。
全体が茜色に染まった刹那、白山の山頂が金色に輝く。
しかし、ショーはそこまで...
雲が多すぎて太陽は姿を現さず、雲の後ろに隠れたまま昇っていった。



大浴場で冷えた身体を温めながらAさんのことを思い出した。
彼は、こんなきれいな街に生まれ育ったのだ。
Aさんとお会いしたのは、今年の8月
FBでムイカリエンテの書き込みをご覧になった彼から、Tさんを通じて
ご自宅に招待していただき、ワインを楽しんだ。
(前回の日記 http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20120805
それ以来お会いする機会もなかったのだが...
今週火曜日、営業帰りに代官山の蔦屋で一息ついていたところ、FBの書き込みを見た彼が
蔦屋まで会いに来てくださった。
彼の職場がすぐ近くにあるとのこと...
そこで、彼が加賀温泉駅のすぐ近くで生まれ育ったことを知った。
この駅に来るのは、いつも使っているニコニコレンタカーの営業所がたまたま近かったからで
特に縁のない駅だったのだが... 不思議な符合だな。
Aさんと会うのは二度目...さしで話しをするのは初めてのことだが
話していて、とても心地よい...何故だろうと考え、途中で気が付いた。
声...なのだ。
とてもきれいな温かい声をしている。
ある年齢に達すると、人格が声に出るという。
どんなに美しくとも、化粧をしようとも、また知識があって話が巧みであろうとも、声は隠せない。
心根が汚れた人は、なんとも嫌な声を出す。ハスキーとかいうことではない。
聴いていて不快になる声なのだ。
Aさんの声を聴いていて、なんと心地よい声だろうと感じた。
きっと心根がきれいなのだろうな。
それが生来のものなのか、これまでの人生で培われたものなのかはわからない。

自分の声は、人が聴いている声とは違って聞こえるから、自分の声が果たしてどうなのかわからないが
つくろうことができないのであれば、やはり心根をきれいにするように生きなければならないのだろう。


石川県内での仕事を終えてレンタカーを返却し、加賀温泉から米原経由で帰途につく。
特急電車が滋賀県に入り、「つぎは長浜」というアナウンスが流れたときに
不意に長浜の街を歩いてみたくなって、同僚に先に帰ってくれと言って途中下車。
2010年...夢を抱いて転職し、この場所に来た。
しかし、ある事情でたった4か月でその夢は消えてしまった。
あとで考えれば、自分があさはかだったのだけれど...
いろいろな想いを消化しきれぬまま、長浜駅を後にした。
今年の5月出張の途中でここに来て、この街で働いている当時の同僚Yさんにお会いした。
...しかし、歩いているうちに、ここを歩いている自分に腹が立ってきた。
なんというつまらないノスタルジーだろうと...
ニュー・シネマ・パラダイス』の台詞
「ノスタルジーに惑わされるな。自分のすることを愛せ」という一言が頭をよぎる。
自分のすることを愛せず、いつまでも過去を振り返っているからダメなのだ。
そして、そのまま踵を返して駅に戻り、米原行の電車に乗った。


私も、おごそかな峰を間近で見てみたい。
人間のちっぽけな、愚かな、卑しい欲望を吹き流す風に向かって立っていたい。
                 宮本輝『月光の東』

雪を頂いた白山の美しい稜線が金色に輝いた一瞬が胸の中でいつまでも輝いていた。