勇気というもの

ベンチャー時代の同僚、鯉太郎さんから電話があり
先日、資料作りをお手伝いした補助金申請が通り
新しい事業展開を始めるので、ホームページを
リニューアルしてほしいとの依頼。
打ち合わせを兼ねて、食事をすることに...
環境関連の仕事で、障害者就労も促進する事業...
会社の代表であるIさんと、当時の仲間Sさんも合流
大井町駅近くの「ほっこり屋」に集合。


経営が危機に瀕したとき、ほとんどのメンバーは会社を辞めて他の道を探さなければならなかったが
千葉と三重の一部の事業はIさんが引き受けてくれて、千葉の鯉太郎さんと三重のT君はそこに留まった。
三重では公共事業を受けていたためある程度の収益はあったが、千葉の状態は厳しく
辞めたメンバーも苦しんだが、残ったメンバーはその何倍も苦労した。
Iさんが営んでいた別の事業は順調だったので、この仕事を引き受けなければこんな苦労はしなくてよかったが
もし、Iさんがそうしてくれなかったら、すべてが無になっていたことだろう。
Sさんは、ベンチャーに出資していたが、そのお金は還るあてもなく、
転職を繰り返して、この5月にやっと大手プラント会社に就職できた。
転職で辛酸をなめてはきたが、この件でリスクを負わなかったのは、ムイカリエンテだけだ。
Iさんの勇気...鯉さんやT君の勇気...  臆病なムイカリエンテは、彼らに及ばない。
なんとか好転していくように祈り、手伝えることはなんでもする...それしかできない。


焼酎を2本、ワインを1本空けて、怪しげな足取りで駅までの道を歩き、改札で手を振って皆と別れる。


失敗を繰り返してきたことで、ますます臆病になっているなと思う昨今..
最近読んだ小説の中の「勇気」ということについて、思いを巡らせる。

にぎやかな天地〈上〉 (中公文庫)

にぎやかな天地〈上〉 (中公文庫)

「度胸かァ....。俺に一番かけているのは勇気やなァ。俺は臆病な人間やなァって、しょっちゅう思うなァ」
と聖司は言い、二種類の錠剤を飲んだ。
「誰かて臆病やねん。勇気ってのは、自然に湧いてけえへんよ。私、このごろ、それがわかってきてん。
いつも勇気凛々なんて人間、いてへんわ」

(中略)
「さっきの、勇気についての話やけど...」
と聖司はソファに横になって姉に話しかけた。
「たしかに、勇気ってのは自然には湧いて出たりせえへんなア。
俺、いままで自分のなかから勇気が自然に出て来たことなんて、考えてみたら一回もないわ」
「そやろ? いつまで待ってても、勇気は出てくれへんやろ?」
と涼子は言った。
「みんな、そうやねん。臆病風なんて、ほっといても勝手に心のなかをしょっちゅう吹き渡ってるねん」
「そしたら、勇気っちゅうのは、どうやったら出て来るねん?」聖司の問いに、
「勇気は、自分のなかから力ずくで、えいや! っと引きずり出す以外には、出しようがないねん。
それ以外に、どんな方法もないねん。
勇気を出そうと決めて、なにくそ、と自分に言い聞かせて、無理矢理、自分の心のなかから絞り出したら、
どんなに弱い人間のなかからでも、勇気は出て来るねん」と涼子は言った。
そして、笑みを浮かべ、これは、昨晩の若い当直医が、研修医になりたてのころ、
大学の恩師から厳しい口調で与えられた教えなのだと説明した。
(中略)
「そやけど、そうやって必死で自分のなかから引きずり出した勇気っていうのは、
その人が求めてなかった別のものも一緒につれて来るそうやねん」と涼子は言った。
「それは何やねん?」聖司は訊いた。
いかにも正確を期そうとするかのように、涼子は頬杖をついていた両の手をテーブルの上に揃えて置き、
一語一語丁寧に言った。
「その人のなかに眠ってた思いも寄らん凄い知恵と...」
そこで言葉をいったん区切り、涼子は視線を壁のほうに注いだ。
「もうひとつは、この世の中のいろんなことを大きく思いやる心。
このふたつが、自然についてくるそうやねん」
(中略)

勇気を出すには、自らを叱咤し、ひるむ心と闘って、自分の意志で、
えいや!っと満身に力を込める以外に、いかなる方法もないのだ...。
 聖司は、勇気というものについて、そのような考え方で向き合ったことは一度もなかったので、
そうやって懸命に自分のなかから引きずり出しか勇気が、別のふたつのものを自然につれて来るという
一種の方程式をにわかには信じられなかった。

自分に最も欠けているのは「勇気」なのだなと思う。
臆病な自分と闘うしなないのだな...勇気がつれてくる二つのものを得るために