ワインレッドのグラデーション

風が強く吹いていた。
空を蓋う一面の雲と海の間を渡ってきた風だった。
海には白波が立っていた。
風はなだらかな丘を駆け上がり、駆け下りていった。
丘一面に紅葉したコキアが、
小動物のようにわさわさと揺れ
そして、そのコキアを囲むように裾野まで広がったワインレッド一色のコスモスが波を打っていた。
コスモスの花芯の先の無数の星も揺れていた。
遠くの方で、セイタカアワダチソウとススキも揺れていた。


理不尽な仕打ちに、しなやかに身体をしならせて、
無数のコスモスは、僅かなばかりの陽射しを求めて、太陽の軌道の方向に一斉に面を向けて、
大地にしっかりと立っていた。
折れても萎れても、次々に新たな蕾を膨らませながら、ただ健気に立っていた。


コキアの紅葉を観にきたのはちょうど2年前。
この群像のような不思議な生き物の、赤く燃える様をもう一度見たいと思っていたら、
偶然、日立への出張を命じられた。
仕事は不首尾に終わったが、車を借りてここに来た。
2年前と違ったのは、色とりどりだったコスモスが、コキアの色に近いワインレッド一色に統一されたこと
そして、海辺には津波によると思われる瓦礫がうず高く積み上げられていたこと...
紅のグラデーションが見事だった。
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20091020


風の向きや日当たりで、紅葉の度合いは異なり、それがまたひとつひとつに個性をつくる。
今にも動きだしそうなコキアは、赤い毛並みを風にまかせて揺らしていた。
コスモスの一輪一輪が、健気に生きる人間のように見えた。


強い風のなかに立っていることさえ堪えられず、前に進むことさえできない自分が
途方もなく小さな存在に思える瞬間...


  アルバムアップしました https://picasaweb.google.com/104915518421068648185/20111020