『銀河蒼茫』

沖縄に大きな被害をもたらした台風2号は、
温帯低気圧となって北上し、
横浜にも時おり強い雨を降らせていた。


今日はTOEICの試験日。
昼前に家を出て、日吉の慶応高校に向かう。
4月のはじめ、外資系企業の紹介を受けた際日常業務は日本語しか使わないが
いずれ英語は必要になると言われ、締切ぎりぎりで、今回の試験を申し込んだ。
結局、その会社は書類選考で1ヶ月も待たされた挙句、もっと若い人が良いと、断られたが、
申し込んでしまった試験は取り消せないので、受けることにした。
ヒアリングは、まあまあ聴こえたが、リーディングは、あまりの問題量の多さに
最後の数ページは、読むことさえ間に合わず...惨敗。
追い込みをするはずだった、最後の一週間は、肉体労働で疲れきって勉強しなかったし...


帰り路...今週図書館に返却しなければならない『銀河蒼茫』を最初から、じっくり読む。
絶版になっているらしく、Amazonでさえ手に入らないので...
野村秋介のことは、5月5日の日記にも書いたが
http://d.hatena.ne.jp/mui_caliente/20110505
獄中でしたためられた一句一句を噛みしめながら読んでいくと
改めて、俳句という世界で最も短い詩に込められた想いと、その美しさに感銘する。
グローバル化の流れの中で、英語が必須になるのは当然なのだろうが、
それ以前の問題で、日本語の読み書きが満足にできない日本人が増えているような...

イカリエンテが言うと、負け惜しみのようになってしまうが...

この雪の打擲 耐えて耐えてゆく


しかし俺はひたすらにゆく冬銀河


何もいふまい 蒼茫たる冬の夜空だ


わが愛す山河の渺々として枯れる


激す世の木枯が撒く 星一


無明とはかくなる濁世 春椿


生も死も 麦の青さがあるばかり


鬼となりて死にたき願い花吹雪


滅びゆくものゝ淡さに 花筏


誰もしゃべるな 桜が散つてゐるから


ひとすじの落花 夕日を手へ運ぶ


哭くまじと思へど春の雪に濡れ


遠蝉の鳴く一瞬といふ無限


夏雲の雄渾といふさみしさなり


夏草の匂ふさみしさ わが多感


君を信じ悔ひぬと断ず 遠雷す


まためぐる秋のさみしさ 天の濃さ


眠る獄 手毬ほどなる月渡る


なし遂げてをかねばならぬ月の冴え


轟然と秋の落日宙にあり

前回も書いたが.....野村氏の思想自体には賛同できないが
人間として、自らの信念、そして師への強烈な想いを貫いたという面においては
尊敬できるし、時代が時代なら英雄になりえたと思う。
師弟の手紙のやり取りや、野村氏の日記を読む限りでの感想であるが...
獄中で師の死去を知りながら、師のもとへ行くこともできない
そして百日祭に献じた句には、師を亡くした哀しみと、師の悲願を受け継ごうという決意が漲っている。

在すごと夜の白梅またゝきぬ


寒梅を見し夜の夢に師の寡黙


憤怒とはかくも静けき夜の梅


寒梅の毅然なりしをわれも秘む

生きなければならないと思った。
生きて何かをなさねばならないと...
有名になることでも裕福になることでもなく...
人として、自分自身に生きた証を求めるために、生きなければならないと...


空を見上げると、どす黒い雲が強風に煽られて、ものすごい速さで流れていった。