不逞なる心を携えて

愛知から夜行バスで横浜に戻り
5:30に自宅に着く。
今日は職安の認定日なので、
2時間ほど仮眠をとって新横浜へ..
さすがに自転車で行く元気はなく
地下鉄で向かう。
桜散り菖蒲が開いて春は盛り...しかし、自分は疲れ切っていた。



今日も職安は超満員だ。
重苦しい空気の中で、名前を呼ばれる順番を待つ間、硬い長いすに座って本を読む。

夜學生

夜學生

   途上     杉山平一


   水をのむ馬のやうに
   頭を垂れて
   悲哀にくちづけてゐた
   私は疲れ
   あまりに渇いていた

ここで、こうしてうなだれて本を読んでいると、こんな姿なのだろうな。
自分の周囲にも、こんな馬がたくさんいる。
多くの人のため息が漂う...ここは人が多いのに寂しい場所だ。
名前を呼ばれて、窓口に行く。
「ムイカリエンテさんの給付は、あと4日です」と念を押される。
そう、あと4日で完全に無収入状態になるのだ。わかっていたが...
職安をあとにして、とぼとぼと下を見ながら駅への道を歩く。
舗道の脇のアスファルトの隙間に生えているカタバミの花も今が盛りのようで..
いたるところで、小さな黄色い花を咲かせている。
健気なものだな。。俺は、この雑草にも劣るな...
などと思いながら..犬のように歩く。


...携帯が鳴る。人材紹介会社のK氏からだった。
先日、7年ぶりに電話をもらって過去の経験が活かせる会社を紹介してくれた...
何かの縁があるかもしれないと期待して...
書類を提出して一カ月以上待たされて...
「残念ながら駄目になりました」と簡単に一言...
「もっと若い方が欲しいようです」と理由を言われたが、嘘であることはすぐわかる。
年齢なんて最初からわかっているのだし、求人票には年齢は制限していない。
やはり転職歴かな... うまくいかないな...


まっすぐ帰る気にもなれず、喫茶店で一休み。
   

   まっしぐらに    杉山平一
 

   まっしぐらに
   闇のなかを
   パラシュートを負って
   墜ちてゆく


   もうひらくはずだ
   いまか いまか

堕ちてゆく..落ちてゆく...まったく、そんな心境だ。
失業保険が尽き、仕事も決まらず... まさに墜落直前
パラシュートは開くのだろうか...
そんな気持ちでめくったページに現われた詩に、がつんとやられた。

   瀑布     杉山平一


   しづかに澄み透って
   たゝへにたゝへたこの水のみち
   絶てるものなら絶つてみよ
   僕らもと天の民族
   一たん山にくだり
   谷に湧いてめぐつてきた
   僕らのみちは三千年
   絶てるものなら絶つてみよ
   そのとき純白のしぶきをあげ
   轟々の叫喚のうちに
   なだれになだれて
   圧倒せんめつするばかりだ
   三千年
   やむにやまれぬこのみち
   目もくらむばかりに
   いまのしかゝる

いつまでも、へたっているわけにはいかないな。
絶てるものなら絶つてみよ...か
生命の流れは、誰にも止められない。
止めてしまうのは自分なのかもしれない。
かつて読んだ、水のない河...乾河道の詩を思い起こし
帰宅して、詩集を開く。。。

乾河道―詩集

乾河道―詩集

 乾河道      井上 靖


  沙漠の自然の風物の中で、一つを選ぶとすると、乾河道ということになる。
  一滴の水もない河の道だ。
  大きなのになると川幅一キロ、砂州がそこを埋めたり、
  大小の巌石がそこを埋めたりしている。
  荒れに荒れたその面貌には、いつかもう一度、
  己が奔騰する濁流で、沙漠をまっ二つに割ろうという不逞なものを蔵している。
  そしてその秋(とき)が来るのをじっと待っている。
  なかには千年も待ち続けているのもある。
  実際にまた、彼等はいつかそれを果たすのだ。
  たくさんの集落が、ために廃墟になって沙漠に打ち棄てられている。
  大乾河道をジープで渡る時、いつも朔太郎まがいの詩句が心をよぎる....
  人間の生涯のなんと短き、わが不逞、わが反抗のなんと脆弱なる!

最後の行を何度も読み返す。
今は沙漠かもしれないが...いつか沙漠をまっ二つに割る濁流になるさ。
そういう不逞を胸に隠し持って生きていけたら...  できるはずだ。