マンションの前の欅並木が、
大きく波打つように揺れていた。
西の空から吹いてくる湿った風が、
独りでいることの寂しさを
ふと思い起させた。
風に身を晒したくなり、外に出てあてもなく歩いた。
大きな池のある公園まで歩き、池のほとりに座って、
水と戯れる鴨と風に揺れる若葉色の森を眺めていた。
頭上で白いハナミズキの枝がいっせいに揺れて、無数の蝶が飛び立ったように見えた。
何故か、三好達治の『甃のうへ』が思い浮かんだが..
それは、最初の三行だけだった。
- 作者: 三好達治,桑原武夫,大槻鉄男
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1971/01/16
- メディア: 文庫
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『甃のうへ』 三好 達治
あはれ花びらながれ
をみなご花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音(あしおと)空にながれ
をりふして瞳をあげて
翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍(いらか)みどりにうるほひ
廂(ひさし)々に風鐸(ふうたく)のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃(いし)のうへ