思わぬ幸運に偶然出会う能力

NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』の司会として
また、「クオリア」という概念で有名な脳科学者、茂木健一郎
同氏の本は、最近書店で何冊も平積みにされている。
その中で、たまたま手に取った『ひらめき脳』
ひらめき脳 (新潮新書)
昨日から読み始めて、一気に読んでしまった。
脳の働きを科学するというのは、とっても興味深い。
人の生命活動は、物理的にとらえれば、すべて脳によってコントロールされている。
いくつかのテーマの中で、まず「ひらめき」という言葉に惹かれた。
「0.1秒で人生が変わる!」というコピーのとおり、ひらめきが人生の大きな転換になることもある
これを科学的に解析しようというのだ。
ひらめきのメカニズムから始まって、ひらめきの快感、学習や記憶とひらめきの関連と
わかりやすい言葉で展開していく。
ひらめきとは生きていく知恵である。
ひらめいた瞬間、脳の中ではドパーミンという快感物質が出ているそうだ。
そのメカニズムは、ド忘れしたときに、なんとか記憶を呼び覚まそうと努力している瞬間に似ているという。
様々な展開の中で出てくる「セレンディピティー(serendipity)」という言葉。
最近、脳科学研究で注目されているこの言葉の意味は、「思わぬ幸運に偶然出会う能力」
一見、宗教だけの範疇であるようなこの言葉を、最新の脳科学が注目しているというのは
非常に興味深い。
ニュートリノの発見でノーベル賞を受賞した小柴先生。
50億年に一度崩壊する原子核の中の陽子から出るニュートリノから発するチェレンコフ光
この光を捕えるために作ったカミオカンデという実験装置。
17万年前に爆発した大マゼラン星雲から発したこの光が17万年かけて宇宙を旅して
1987年2月23日、たまたまこカミオカンデを通過したという。
何とも気が遠くなるような、天文学的確率の出来事である。
こうした科学の発見の中には、こうしたセレンディビティーという概念なくして語れないことが多くあるという。
女性誌などでは、恋人と偶然出会う能力などという意味で使われているそうであるが...
この「思わぬ幸運と偶然出会う能力」というのは、
人間ではコントロールできない要素がこの世の中にはあまりにも多いという示唆でもある。
茂木氏は、このセレンディビティを起こすための条件というのを6つ挙げている。
要約すると
1)行動  まずは行動がなければ何も起こらない。あたりまえだが...
2)気づき 一瞬のチャンスに気が付くか否か、これも大きな分かれ道
3)観察  気づいたことをよく観察し考えることも大事なこと
4)受容  理性で観察したことを感情で受け入れること
5)理解  対象を理解することで、はじめて知の中に体系付けられる。
6)実現  理解したことを他者に説明したり社会に広めて実現する過程
ぼーっとしていて幸運を掴めるわけもなく、やはり求め続け行動し続けることが大事なのである。
これは決して超能力でも神がかりでもない。
その不断の努力や欲求の中で、思ってもみなかった幸運を掴むのである。
ひらめきも偶然には訪れない。
側頭葉には知識や経験が加工され蓄えられているという。
ここに前頭葉から刺激が伝わり、何かの拍子にふとひらめきが走るわけである。
人間の生命の力とはなんと不可思議で力強いものだろう!
17万年の偶然を宇宙の果てから招き寄せた力も、生命の中の能力なのである。
そう考えたら、人生で解決のできない問題など一つもないように思えてくる。