『風の外側』

「あなたの夢は何?」ありきたりの問いかけ...
なのに、胸がズキンときた。
海の上をわたる風の中に切なさが走って行った。
自分の夢とは何だったのだろう?
下関の在日を題材にした映画。
奥田瑛二監督第4作『風の外側
http://www.oricon.co.jp/cinema/trailer/d/526/
撮影は、高校時代の剣道部の同期生、石井浩一君。
新宿K'sシネマにて鑑賞
夢に向かって真っすぐに生きる少女と、夢を持てずに自堕落な人生を歩く青年。
あまりにも違う境遇を生きる二人が、関門海峡を渡る船で出会う。
二人の間には、流れの速い海峡が横たわっている。
差別と嘲笑の中で生まれ育ち、夢を持つことなど思いもつかなかった青年。
在日として成功をおさめた実業家の娘として、天真爛漫に育った少女。
惹かれ合いながらも、その距離はなかなか縮まることがない。
少女との出会いで、青年の中に「夢」という文字が浮かび上がる。
現実に埋没しそうになりながら、「夢」なるものを追いかけはじめる。
しかし、「夢」はその姿を現してはくれない。
国籍という壁、差別の壁...しかし、それは人間の内なる壁である。
マスカーニのアヴェ・マリアが、美しくそして切なく関門海峡の上を風に乗ってわたっていく。
(マスカーニのアヴェ・マリア、こんな曲↓

堕落との決別、青年は「夢」を求めて一歩を踏み出す。
社会は確かに「夢」を持てないような重苦しい空気がある。
教育は偏差値で人間を振り分けていく。
しかし、「夢」を持てるか否かは、結局自分自身の中の壁を取り払わなければならない。
そんなメッセージを感じた2時間であった。
以前にも引用したが、ホイットマンのこの詩を、ふと思い出した。

いつまでも生き生きとして、いつまでも前方へと、
堂々と、荘重に、悲痛に、引っ込んで、もがいて、物狂おしく、手に負えず、弱弱しく、不満足で、
絶体絶命に、誇らかに、溺愛して、人々に受容され、人々に排斥され、
彼らは行く!彼らは行く!わたしは彼らが行くのを知っている、が、彼らがどこへ行くかは知らないのだ、
だが、わたしは彼らが最もよきものの方へと行くことだけは知っている。
偉大な何ものかの方へと。
ホイットマン詩集『草の葉』より「大道の歌」

撮影の石井君へ、
スクリーンを見ながら、カメラのこちら側に石井君の眼があることを意識して見ました。
石井君の技術と情熱を感じる、素晴らしい映像でした。