苦悩というもの

実家へのあいさつ回り、近所のあいさつ回りもひと段落。
自室に一人坐って、年末に整理した書棚に向かう。
小林秀雄箴言集を開いてぱらぱらとめくる。
人生の鍛錬―小林秀雄の言葉 (新潮新書)
自らの拙い経験に基づく浅はかな我見だけでは、人生は軽薄なつまらないものになってしまう。
先人の思索した哲学を学び、人と語り、そして行動しなければならぬ。

「人間は苦悩を愛する」というドストエフスキーの愛好した言葉には、
少しもひねくれた意味はない。
ひたすら人間の内的なものの探求に力を傾けた人物の極めて直截な洞察が語られているだけだ。
苦悩は人間の意識の唯一の原因である。
調和、平安、均衡、安全を愛する精神というものが考えられるなら考えてみよ。
そういうものを、人間は、理性という一才能により或いは迷信という一才能により、
巧妙に或いは拙劣に獲得するにせよ、その時彼の精神は、精神の一番明瞭な特徴を失わざるを得ない。
叛逆や懐疑や飢餓を感じていない精神とは、その特権を誰かに売り渡してしまった精神に過ぎない。
                              『悪霊』について 

苦悩...人間の意識の唯一の原因であり、精神の一番明瞭な特徴。
苦悩なくして、人間は人間でなくなるということか...
本然的な生命の底の部分で、人間の精神は苦悩を愛しているのかもしれない。
突然踏み込んだ闇の中で、思索は巡り続ける。
生命力を燃え立たせて、現実に立ち向かわなければならない。
夜、Sさんにお会いする。
55歳で役員をしていた会社が65億円の負債を抱えて倒産。
Sさんも個人で2億円の借金を抱えて財産を全部なくした。そこから立ち上がった人である。
事業を起こし、働いて働いて10年で借金を完済した。
一言一言の重さが違う。生きる気迫が違う。なんとも言えない人間の深みを感じる。
67歳、青年の眼の輝き、本当に優しい眼の持ち主である。
勇気が凛々と湧き上がってくる。
さあ闘いを開始しよう。