陽だまりの読書

今週末は現場が入ってしまい、土曜日の夜から出張に出るため今日は久しぶりに休暇をとる。
家で休んでいればよいのだが、あまりにも天気がよいので文庫本を持って外出
空気は冷たいが陽のあたるところは暖かい。
誰もいない公園の、落ち葉の舞い散るベンチにかけて、山本周五郎を再読。
最近映画化された『椿三十郎』の原作『日々平安』を表題作とする短編集。
織田裕二椿三十郎はいただけないが...)
中でも『橋の下』は、切なく美しい小説である。
夜明け前、果し合いに向かう若侍
橋の下で暮らす老人との出会いを通して、頑なな心はほぐれていく。

「あやまちのない人生というやつは味気のないものです。
 心になんの傷も持たない人間がつまらないように、生きている以上、つまずいたり転んだり、
 失敗を繰り返したりするのがしぜんです、そうして人間らしく成長するのでしょうが、
 しなくても済むあやまち、取り返しのつかないあやまちは避けるほうがいい」

どんな人間にも心には人に言えない苦悩や過去の傷がある。
山本周五郎は常に弱い人々の味方であった。
その庶民の目線で、庶民を励まし続けて勇気と希望を与えた作家であった。
背中に冬のやわらかな陽光を浴びながら、しばらく周五郎ワールドに浸る
ふと気が付くと、落ち葉に交じって紅色の花びらがひらひらと舞い落ちてくる。

見上げれば美しい山茶花の花。
紅葉も終わって色褪せていく公園の中で、鮮やかに色を添える。
黒澤明監督の、元祖『椿三十郎』を思い出す。
モノクロ映画だったはずなのに、屋敷の水路を流れていく椿には、
赤と白の色だけがついていたような...否そんなはずはないのだけれど...
しばらく読書に耽り、体が冷えはじめたので帰宅。
明日の夜から、また出張だ。